未登録遺跡型ダンジョン ダムナティオ・コロセウム
#23 太客に凸られてしまいました
後ろで束ねられた黒い髪、そして洒落た片眼鏡とスーツ。
太客のカムナちゃん改めWDO特務課カムナビ・コノエは、いかにも気品の溢れるビジネスウーマンといった様子なのだが。
「アリヴァ様の吐いた空気を吸えている……幸せ……」
オレだけに見せているフニャフニャした表情で、そのクールビューティなイメージも台無しとなってしまっている。
「たしか特務課って、探索者による犯罪や、暴走したダンジョンの鎮圧が仕事だったよな。何でまたそんな大それた人が」
「アリヴァ様ぁ、いつも通り『カムナちゃん』とお呼びください!!」
「あ、はい」
何というか、圧が強い。
「ええと、カムナが来た理由はですね。ああ決してアリヴァ様に会いたいからという理由ではなくてですね、決して抜け駆けとか」
「いやまあ、カウサーの隠しエリア関連かなーってのは察しつくけど」
「そう、そう! それです!!」
本当に圧が強いなこの人。
だがドン引きしている中、カムナの雰囲気が突然反転する。
「そして推しを傷つけたクソ虫は駆逐しなければならない。これはファンとして為すべき義務なのですから」
「そんな義務ねえよ物騒な!」
カムナちゃんは、ほぼ毎回100ドル以上の赤スパを10回ほどやってくれる超絶太客だ。
オレの配信収入の6割は彼女によるおかげと言っても過言ではない。
「コロスコロスコロスコロス……!」
だが正体が目をガン剥きにして殺意を放っているヤバい奴だと、彼女の事を好きな人が居るのか心配になってきてしまう。
きっと、普段生活していて良いことが無いんだろうな。お察しするわ。
「まあ、アレだろ。逮捕しに来たんだろ、コイツを」
「はいっ!」
「なんで笑顔で答えるかなぁ、そして何でオレのがそっちの仕事を分かっているのかなぁ」
「そこまで理解されているだなんて流石です、アリヴァ様!」
「何も嬉しくねえわ」
呼吸するだけで褒めてくれそうな奴に言われてもなぁ。
こんな奇行のせいか、オレはカムナちゃんのことを舐めていた。
彼女は慣れたクールな表情へ戻すと、縛られているジェイの方へ冷徹な視線を向け。
「では、カムナと貴方様だけの空間にしてさしあげましょう。せっかく此奴のタレントスキルがワープ関連ですし、使わない手はありませんものね」
「っ、この
手を額に置いて数秒もしないうちに、ダンジョン制作者をパッと消滅させた。
「おま、何をした!?」
「ワープですよ。WDOの牢獄に、直接放り込みました」
「え、でもセットスキルの宣言なんて」
「
「え、お前鑑定のタレントスキル持ってんの?」
「世界に1000人は居ると言われていますがね。だからこうして工夫を凝らし、相手の能力を解析、及びコピーしたのです」
「工夫の度合いが天元突破してんだろ!?」
「没個性だの人生外れスキルだの言われ続けたら、こうなりますよ」
「いやいやいや……」
この太客、やろうと思えば世界征服できるんじゃないだろうか。
全世界数十億人ほどの無能力者に謝ってほしい。
「アリヴァ、大事ないか!?」
と、ようやく借りた部屋へネフェタル達が突撃してくれた。
オレと、舌打ちしている女の2人であることに違和感を抱いたのか、怪訝な形相を浮かべている。
「いったい何があった!?」
「ジェイが居ないけど、まさか逃がしたの?」
「ううん。オレなんもしてない。コイツが全部やってくれた」
「ッ、貴様なにをした。我が奴隷に手を出したわけでは」
「――奴隷?」
「ァ、わ……ぁ……」
「泣いちゃったね」
「さっき分からされたんだな」
合流が遅いと思ったらそういうことか。
逃げよとメッセージを送ったあと、ミティに慰められながら色々と事情を聞かされていたんだな。
「まあ仲間も揃ったことだし。そろそろ本題に入ろうじゃねえか」
「いえカムナは」
「とぼけんなよ。オレのファンだからって理由だけで、凸してきたわけじゃないだろ」
秘密裏に行動することの多い特務課といえども、仲間も連れずに1人で来るなんてことがあるだろうか。
本当にオレへ会いに来ただけなら、ダンジョン製作者のワープ先を確保していましただなんて話も通らない。
「カムナちゃんは特務課でもトップクラスの実力者だろう。だから上からトップシークレットの案件を伝えるよう任された……違うか?」
「……見事としか言いようがございません。アリヴァ様」
以前にも特務課の人間から、ヤバいダンジョンや
「それと、ここに居るのはオレの主人とマネージャーだ。無関係者じゃない。情報の秘匿は約束させる、だからこのまま要件を話してほしい」
「そう言われては……断り切れませんね」
カムナちゃんは何重にもかかったロックを外し、スマートフォンの画面を見せてくる。
そこにはダンジョンの外観と位置。そして、被害者数が細かに記されていた。
「ダムナティオ・コロセウム。既に、未登録ダンジョンの探索許可の出されている探索者が5名も行方が分からなくなっています」
「よりによってロマネス国の
「我々としても、有数のエリート探索者を一気に無駄死にさせたとあれば影響力の低下が懸念されます。そうなればダンジョンの管理が滞り、世界の脅威となってしまう恐れがあります」
「なるほどなぁ」
それに、ここでユロピア大陸でもそこそこ影響力のあるロマネス国に恩を売っておけば、祖国ヒンデガルトは外交でも優位に立てる。
いずれ復活するメフィスト王国も同様に、友好関係を結びやすくなるだろう。
そうすれば、かつてオレ達の国を植民地に置いていたというブリティ王国への牽制にもなるはずだ。
「未登録とな……つまりアリヴァと同等の力を持った兵が倒されたというのか!?」
「
「それは最前線で命を賭した英雄への冒涜と受け取ってよいか?」
「はいはいストップ!」
「そもそも、まだ行方不明なんだから亡くなった扱いにしないの」
頼むから互いに地雷原でダンスバトルを繰り広げないでほしい。
「それでアリヴァ様、返答の程は」
「決まってんだろ」
ニィと口角をあげ、ファンに向ける。
「オレはオーケーだ。第一、ここまで来てくれた
「アリヴァ様っ……!」
「ネフェたんもそれでいいな?」
「はぁ。全ては妾のため、なれば首を縦に振る以外あるまい?」
「でも貴女は居残りね」
「ぁえ?」
「ん?」
「何じゃとぉ!?」
ちょっとツラ貸せと言わんばかりに、女王がマネージャーを引っ張りコソコソ話始めた。
「貴様、ミイラは奴隷と主人が離れると力が弱まると言ったはずじゃろ」
「アリヴァなら大丈夫」
「何を根拠に!」
「それより宝箱開封の配信しなきゃ。借りた部屋だってタダじゃ無いんだし」
「転移先で開ければよかろう!」
「ロマネス、いま混沌とした状況にあると思うけど大丈夫なの。刺されない?」
「ぐ、ぬぅ……!」
しばらく唸った後、ぶー垂れながらネフェたんが戻ってくる。
正直、オレも不安だ。どれくらい弱体化されてしまうのか予想できない。
「……仕方あるまい。アリヴァ!」
「おう」
それでも、オレを信じてくれた女王に対して弱音なんて吐いていられないだろう。
「妾の許しもなく消えてくれるなよ」
「当然だ!」
彼女は女王で配信者、オレは探索者で配信者。
次のダンジョン探索は、少々過酷なものになりそうだ。
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