#22 いま そっち ついた

 カウサー田園郷から出たいときは、各所に敷かれたマンホールへ入れば出入り口へワープできる。

 この気絶しているダンジョン製作者なる輩を放置するわけにもいかないため、オレ達はさっさと配信を切り上げ撤収する事となった。


「凄いぞ、本当に一瞬で出入り口に戻れるとは。しかも更衣室のロッカーの近く!」


「流石にワープ先は出口専用みたいになっているけどね。そういう計算のもと観光地化しているわけだし」


「こういったカジュアルさもまた、初心者向けって言われる所以だな」


 と言いつつ、担いでいる荷物ヒョロガリを一瞥する。

 コイツのせいで、カウサーがランク昇格の危機に陥りかけているのだから。


「……更衣室を出た先で、宝箱を開封しても良いブースがあるはずだ。個室も借りれるし、そこで落ち合おう」


「アリヴァ、いま変なこと考えなかった?」


「あー……いや?」


「……なるほどのう」


 まあ女王様には心を読まれるわな。

 いったん配信切って、宝箱開封の枠を別で取っといてよかったよ。少しでも他人に暴力的な事をすればBANの危険性が出てくるから。


「ってことでまた落ち合おう」


「あ、ちょっと」


「待て待て。ここは奴に任せようぞ」


 ということで、先に更衣室を出て部屋を取る。

 幸い、まだ2人は身支度の途中のようだ。今日のオレはシャワーだけだから非常に楽でよかった。

 それにダンジョン製作者も、しっかり意識を飛ばしたままのようだ。


(ただ尋問するのも芸がないよな)


 本当は配信を通してダンジョンの秘密をゲロさせたかったが、いちど閉じてしまった口を手っ取り早くこじ開けるには尋問しかないだろう。


「これでよし、と」


 ということで、奴の頭にをセットして椅子に縛り上げた。


(どんなツラしてんのかと思ったが、存外モテそうじゃねえの。色白で中性的な細身イケメン、こりゃ親母に見つかったら寝かしてくれなくなるかもな)


 そんな安眠を遮るようにペシペシと頬を叩いて無理やり起こすと、ジェイはギャースカと騒ぎ始める。


ジェイをどうするつもりだ。警察ポリに突き出すのか!?」


 勿論そんな気はない。尋問の時間だ。


「クイズ! 雷帝神ケラウノスビリビリショ〜ック!!」


「は……はぁ!?」


 こういう頭の固いヤツには、想定外をぶつけまくるのがいいからな。


「これからお前には、一問一答に答えてもらいます」


「な、何を考えて」


「パスや嘘の場合は頭から電流が流れます」


「拷問じゃないか!?」


「ということでWDOに突き出すまでの間。色々と話してもらうぞ」


「拒否権は無いのか!?」


 WDOの職員か義妹たちが来るまでの間だから我慢してほしい。

 特にミティにバレてシバかれるまで、たくさん情報を聞き出す。


「第1問。お前の仲間は何人いる?」


「……フィリカ大陸には、ダンジョン製作者が2人配備されている」


「2人?」


ジェイともう1人アンド……エム


「エム?」


「主にフィリカのダンジョンを顕現クリエイトしている。ジェイはカウサーの奥底で芸術アートを創っているだけだった、金を払えばいいだけだから入場ログインもしやす」


「はい無駄話!」


「おぼぼぼぼぼ!?」


 つまりそのエムって奴を辿れば、メフィスト王国の手掛かりに王手が掛かる可能性が高い。

 ダンジョンを作りまくっているんだ。それくらいはできるか。


然しバット人間ピーポーをダンジョンにして回るラットが紛れ込んだ。縄張テリトリーを弁えないシットだ」


「……なら潰さなきゃいけねえな」


 アブドゥールさんをダンジョンに変えた奴ってことか。

 額に青筋がビキビキと立っているのが自分でもわかる。


「ソイツは何処にいる」


「分からない。フィリカ大陸の何処かということしか」


「……嘘は言ってないか。ならせめて名前を」


 と、そのとき。

 カメラフォンから2回、メッセージを知らせるバイブが響いた。


(なんだ、こんなときに)


 普段なら気にならないが、今日だけは何か嫌な予感がしたのかポケットに手を入れていた。

 1件は、相互登録しているネフェタルから。


“捕まる前にそこから逃げよ!”


 そしてもう1件は、予約している宝箱開封の配信枠から。


“@カムナ $500.0 いまそっちついた”


「えちょ、はぁ!?」


「動くな」


 背筋が凍るほど冷徹な声が、予約していた多目的室を揺らした。


「ここに、ダンジョン製作者を名乗る犯罪者が居ると通報が入った。よって強制執行に移らせてもらう」


強制執行エグゼキュート!? 君に道徳ハートは無いのかね、第一なんの権限があって」


 轟音と共に、ジェイの右頬が切れた。

 スーツの女が手にしていた銃だ。振り向き、オレは人生最大級の警戒心を露わにする。


「世界ダンジョン機構特務三課、カムナビ・コノエ」


 名前だけで合点がいった。

 あの能面のような表情は嘘だと。


「国際魔物防止法ならびに迷宮侵入罪、他にもネタは挙がっている。そして何より」


「ヒッ」


 手を取られ、光悦とした表情を浮かべられ、ミイラなのに脂汗が出るような感覚に陥ってしまう。


「貴方を傷つけたことが許せないのですぅ、アリヴァしゃまぁ……♡」


 太客の正体は、想像以上にやべー奴だったようだ。


〜〜〜〜〜〜


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