#18 海竜って200種おんねん
カウサー田園郷の隠しエリアは、何度もガキの頃に訪れたことがある。
おかげで何が出るか、どういったランクかは知り尽くしていたつもりだ。
“適当言ってる?”
“そもそも隠しエリアなんて出るの初めてじゃね?”
“WDOのランク付けが間違ってたってこと?”
“なんかそういう
「攻略wikiにもそんなものは載っていないじゃん、どうして言い切れるの?」
「そうじゃ、何を根拠に!」
「さっき出たろ、ゴリラゾンビとヤツメガラス。オレが知る限りでは、アレが隠しエリアの生態系の頂点だ」
そもそも正式に探索者ライセンスを取得したら、滅多なことがない限りD級ダンジョンなんて訪れない。
隠しエリアだって、数時間歩いてようやく入り口となる電話ボックスやバス停が出てくるのだ。
よほどの酔狂か特訓でも無い限り、こんな情報は知り得ない。オレも久方ぶりに来たおかげで、記憶が朧げだったしな。
「でも、それは15年以上も前の話でしょ。その間に変わったってことは」
「それも有り得る。ただ、たったの15年強でランクが2つ以上も変わるかって疑問もあるんだ。それも隠しエリアだけが」
A級、S級ともなってくると、
その場合はダンジョン保有国の正規軍が対処することになっているが、そんな情報も聞いたことがないし、何よりアブドゥールさんか誰かがオレに助けを求めてきただろう。
「だからこそ。カウサー田園郷隠しエリアを、未登録ダンジョンとして探索し、情報を更新する必要がある」
「っ、つまり?」
期待と不安を混ぜた表情を浮かべるネフェたんを横目に、
「ここからは
配信用カメラフォンを起動し、女王のスマホとの連携を奪い宙に浮かせる。
「おぉ! 良いのか、本当に良いのか!?」
「本当は申請が必要だけど……ここは一応公共のダンジョンだし、何より入ってしまったものは仕方ない」
「画質と音質は悪くなるけど勘弁してくれよな。カメラマンを守りながらだと動き辛いし、何より自動回避AIを搭載した最新カメラフォンのほうが肌に合って」
「守られる気はないよ」
気がつくと手の空いたミティが、撮影用カメラからサブマシンガンへと持ち替えていた。
それも、秘宝を組み込みバキバキに改造してある専用モデルの。
「ただの資格としてライセンスを持っているわけじゃないから」
「流石は義妹だ。頼もしい」
「ぐぬぅ……妾にも専用の武具を寄越さぬか」
「こういうものは自分で手に入れるのが良いんだ、よっと」
女王様の愚痴を聞き流しながら、さっそくオレは落ちていた石を拾い上げ、それを回転をつけながら水平に投げた。
地面をバウンドしながら進み、やがてその動きに釣られて沼の
「よし、罠はアレだけみたいだ」
「はいはいはい、今度は理解したぞ! 人が走るようにして石を転がし、魔物や罠を誤作動させる技法。違いないか!?」
「へえ、分かってきたじゃん」
「ふふん、奴隷に聞いてばかりでは面目が立たぬからな!」
その勝ち誇ったような顔は少し鼻につくが。
案の定、コメント欄は「ドヤ顔かわいい」「たすかる」で埋め尽くされているし。
「よしアリヴァ、ミティア。石を持って来るがよい!」
「ついに肩を回し始めたよ」
「そんなにストック無いけど?」
「良い。興が乗った、さっさと妾にもやらせよ!」
「ならまずは水切りの要領で投げるとこからだな。投げ方は、こうだ」
「こうか!?」
目を輝かせながら、ネフェたんが『罠切り』の投げ方を試し続ける。
基本的な技術でもこうして彼女が興味津々に覚えてくれるのが少し嬉しくて、思わず微笑みが漏れてしまった。
だが、7投目のとき。
『ビビビィガガガガーーーーッッ!!』
「ッ、避けろ!」
「当然!」
勢いのつきすぎた石めがけて、あぜ道の奥から身体のずんぐりとした飛竜が突撃してきた。
速い。オレはミティを庇いながら、そしてネフェたんも逆方向に跳び、紙一重でかわす。
“げえええええ”
“コイツの亜種、前にアリヴァの配信で見たんだけど!?”
“人面キメラがボスのときじゃんそれ!”
「
「どうして
「待て、此奴は竜種ではないのか? どうみても飛竜の類じゃろう!」
「あんな、
「
「意味わからぬ、というか口調どうした!?」
だから
基本的に鱗が多層になっているのが、海竜種とされている。
「そして海竜種が出るのはA級からだ。
「余計に原因を探らねば、ということか!」
何より、現在の同接は10万人を超えている。
そんな中で「分かりませんでした! いかがでしたか?」なんて結論付けた暁には、翌朝のネットニュースで炎上記事が出回りまくるだろう。
それにランク見直しのせいで、せっかくの人気スポットが一般公開中止となるのもマズすぎる。
『ビガッ』
「チッ、諦めてはくれないよな」
「むしろ好都合。ここで首を刎ねてくれる!」
「待て、ソイツは海水を放ってくるぞ!」
ミイラに水分は御法度だって、
「此奴も有象無象と同じ、妾が蹴散らして」
『ビィガア!!』
「ぐっ!?」
案の定、奴の振るう尻尾がネフェタルにクリーンヒットしてしまった。
海水の光線ではないことだけは幸いだが、腕でガードしていても体格差がありすぎる。
「ぬぉ、おぉっ!?」
女王はそのまま後方へと吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がってしまった。
『ビィィ!』
そしてとうとう海水の咆哮をチャージし始める。
A級の魔物は、獲物を仕留めるときも一芸挟んでくるのだ。
「間に合え! パッシブ:スピー」
「〈セット:
『ビボボォン!?』
何とか食い止めようと駆け出した瞬間、奴が溜めていたエネルギーが爆発した。
「今しかない、早く!」
ミティだ。アイツの銃は弾の威力や属性を自在に変えられる。
そして放たれる銃弾を一つに合成し、一気に海竜の咆哮を撃ち抜いたのだろう。
何にせよ、チャンスだ!
「〈パッシブ:スピードⅧ〉、セット:
残すは電光のみ。
雷鳴が聞こえたその頃には、竜は八つ裂きとなっている!
「まだ決め台詞はお預けだな」
「よし、グッジョブだよ」
「断末魔すら上げさせずに、か。流石は妾の奴隷、想像以上じゃな!!」
“やった!”
“うおおおおお!!”
“金箱きちゃああああああ”
仲間からの尊敬。視聴者の歓喜。
だが、それらを浴びるのはまだ早い。
「出てこい。そこで見てるんだろ」
海竜種の突っ込んできた方向――あぜ道の続く先にある闇の中へと叫ぶ。
「……
「ヒンデ語かブリティ語かハッキリしろよお前」
「
明らかに口調のおかしい猫背の男。
夜色のフードとマントに身を包ませ、その素性を闇へと葬り怪しげな雰囲気だけを残している。
「さて。
「ここはテメェの物じゃねえ。ルールに沿えないなら出禁にしてやる」
ジェイ。妙に甲高い声を持つコイツが、このダンジョンを狂わせたのか?
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