#17 隠しエリアをご存じか?

「隠しエリア、じゃと?」


“なにそれ”

“カウサーにもあるの!?”

“盛り上がって参りました”


 各地に点在するダンジョンには、隠しエリアが存在する場合もある。

 一定の行動を取らなければ入れないが、苦労に見合うだけの報酬が手に入りやすいボーナスステージ。

 これを見つけ出すのも、未登録ダンジョン探索者の得意技。配信は盛り上がるし秘宝は手に入るし、さらにレポートの値段も上がるしで良いこと尽くしなのだ。


「というかネフェたんが寝てた場所も隠しエリアに定義されるな」


「あそこは玉……た、確かにそうか」


 何とか話を合わせてくれた。

 ミイラとバレるわけにもいかないし、まだ古代メフィスト王国はヒンデガルトの隠喩ということにしておかなければならないからな。


「運次第だが、公衆電話かバス停が出てくることがある。そこで一定の行動を取れば、日の沈んだエリアに入れるってわけだ」


「その行動とは何ぞ」


「これもランダムだからなぁ……その場その場で対応するしかない」


「煮え切らぬのう」


「ただ。そっから先は、難易度がCやBくらいに跳ね上がる。代わりに宝箱も、難易度の割にレアリティはブロンズシルバーがわんさか出るぜ」


 つまりは、メフィスト王国に関する秘宝も手に入りやすくなるというわけだ。

 きっと親母もそこで手に入れたのだろう。

 オレがまだヒヨッコの頃、カウサーの隠しエリアを見つけて攻略する修行を何度もさせられたし、その延長で見つけたのかもしれない。


「ならさっさとそのトリガーとやらを見つけねばな! さっそく……おっ?」


 歩み始めると、すぐに目的のブツが見つかった。


「黄色の受話器……コレはもしや」


「公衆電話だな。今回はこのパターンか」


「どうすれば良い!」


「うーん、それ言っちゃったらネフェたんのためにならないしな」


「何じゃと!?」


「これからC級、B級とランクアップしてゆくにつれて、ダンジョンのギミックも複雑になってくからさ。ここは試しで、自分の思うようにやってみないと成長しないだろ」


「ぐぬぅ……!」


 それに未登録ダンジョンの場合は、このような謎解きを瞬時に行ない続けなければならない。

 だから、いずれのことも考えてネフェタルにはレベルアップしてもらう必要がある。


「えぇい、このようなものは正面からぶつかってぶっ壊せば良いじゃろう!?」


「あっ」


 思考を放棄したポンコツが選んだ答えは、何もせず受話器を取ること。

 だが、次の瞬間。


『おまえ は しんだ』


「ッ――」


 即死ルートを踏んでしまったため、ネフェタルは力なく倒れ、息を引き取った。


「ネフェタル!?」


「大丈夫だ、ほら起きろ」


「ッ!」


 ただ、ネフェたんはミイラだから問題なく起き上がれるんだけどね。


「こんな事が許されて良いのか!? 心臓の辺りがキュッとなったぞ!?」


「まあな。受話器を取った瞬間、基本的には即死。今回は加護の御守りを持たせておいたから何とかなったけどな」


「そうじゃったかな……そうじゃったかも……」


 まあ嘘なんだけど。視聴者にミイラだとバレるわけにはいかないからな。


「して、正解は何じゃ」


「近くに番号表があるから、それに従ってダイヤルを回さなければいけない。もし間違っていても即死だし、気をつけなきゃダメだな」


「のう本当にここD級か?」


 何があっても自己責任。ダンジョン探索前に誓約書を書かされるだけはあるってことだ。


『まいど! フィリカスーシーズだよ!』


 なるほど、今回は寿司パターンってわけね。


「ギンサバ押し寿司、パーティーセットを頼むわ」


『あいよ! トッピングはどうしましょ?』


「ホーネットの幼虫、がっつり炙りで」


『――』


 一瞬の沈黙の後、ぎゅうぎゅう詰めになっている電話ボックスの外がグニャリと歪み。

 茜色だった空は紺色に染まり、太陽の代わりに月が天を支配し始めた。


「風景が、変わった?」


「到着。ここが隠しエリアだ」


「分かるわけなかろう、どういうことじゃ!?」


「確かに初見でわかるはずもないからな。今まで通ってきたトラップのほかにも、無視してきた通行人からヒントを聞きながら導き出さなきゃいけないし」


「通行人……あっ、あの露天商とかか!?」


「まあな。他にも色々とあるから、それを基に合言葉を入れれば着くってわけだ」


「無理ゲーじゃろ、なぜ試しおった愚か者が!!」


「いっかい試したほうがいいだろ、じゃないと覚えないし」


「試しで殺しにかかる奴隷がおるか!!」


 電話ボックスから蹴飛ばされてしまい、あやうく田んぼへ落ちかけてしまう。

 そして、そんな侵入者を待ち受けていたのは。


「ベノムサーペント。C級やB級に巣食う毒蛇だ」


「妾に毒は効かぬ。余裕じゃな」


「果たしてそうかな」


 稲穂より這い寄りし蛇の他に、作物を踏み潰しながらユラユラと近寄る巨躯。

 そして、不気味で不吉な鳴き声をあげて飛び回る異物。


「ゴリラゾンビ。強力な不死アンデッド型モンスターだ」


「それに、ヤツメガラスまでいる。これもD級のボスより強い鳥型モンスターだね」


“ぜんぶアリヴァの配信で見たことあるヤベー奴らじゃん!”

“これD級じゃないだろ!?”

“公衆電話はヤバい、wikiに書いといて!”

“バス停も同じだってさ!”


 確かにD級では絶対に見ないような面々だ。

 故にミティも、カメラを構えながらも護身用の武器を取り警戒を強めている。


「気をつけろ。コイツらは群れだし、ホーネットやカッペゴブリンなんかよりも」


「たしかアリヴァは、ここで修行をしたと申しておったな」


「ん、まあな。懐かしいし、今もよく見る面々だ」


「なれば」


 瞬間。前線に立った女王が襲い来る蛇を捕らえ、鞭のように振るい。


「妾に勝てる道理など、あるはずなかろう?」


 たった数秒の間に嵐のような鞭打を浴びせ、魔物モンスターの群勢を宝箱へと還元していった。


「っ、マジかよ」


「ここまで強かったとはね。私も想定外」


 秘宝を喰らい腹を満たしたミイラの女王は、まさしく無双と喩えられるほどの力を有していた。

 ……だがな。


「動画映えって、気にしてはります?」


「少しは苦戦した演出してほしいよね」


「無理を申すな! それに、ほら。ブロンズシルバーの宝箱じゃぞ、これは動画映えになるのではないか!?」


「まあ確かになぁ。とはいえこれがデフォになってく」


 そのとき、見えてしまった。

 小躍りする彼女の目線の先に躍る、クネクネとした白いナニカが。


「待て!」


 咄嗟にネフェタルの視界を支配するように、彼女の前へ立ち塞がり、抱きしめる。

 驚愕と、赤面。それより今は、安全を確保しなければ。


「オレのほうを見てろ。絶対余所見するなよ」


「っっ!!?」


 ミティもカメラを下げてくれている。

 こんなものを写したら、どうなるかわかったものじゃないからな。


「お、おいアリヴァ」


 息が熱い。ミイラには御法度だ。

 頼む、早く何処かへ行ってくれ……!


「急にどうした、貴様、奴隷のくせにぃ」


「……行ったか」


「ほぇ?」


 気配が消えたのと同時に後方を見て、白いナニカが去ったことを確認する。

 よし、もういない。すかさず抱き寄せていた女王の身体を離す。


「強力な幻惑罠ミストトラップがあったからな。目にして理解したら、一生狂気に呑まれるタイプの」


「だ、だからかぁ……して、女王を誑かした罪はどの様にして贖う?」


「悪いがそれどころじゃない。一大事だ」


 いちど、このタイプの罠は目にしたことがある。

 それも、後にと定義されるようなダンジョンで。


「こんな強力な罠は、隠しエリアとはいえ


「ッ!?」


 何かが、おかしい。

 先日の人型ダンジョンといい、いったい何が起こっているんだ。

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