#15 迷惑系Dtuberの争いに巻き込まれてみた

 トラブルを起こしているのは、どちらも2人組のようだ。

 片方は刺青にスキンヘッド、そしてサングラスと如何にもマフィアといった風貌だ。カメラマンは舎弟か何かだろうか。

 もう片方は、オレンジのシマシマな服を纏った大柄な男で、カメラマンは骨みたいな青服。体格に差がありすぎるが、何処かで見たことがあるのかしっくりきてしまう。


「どうかされましたか!?」


 っと、ここの職員がトラブル対応に入ったようだ。

 だが分が悪い。連中、やる気だ。


「コイツがな、ワシん宝箱を横取りしようとしたからな、カタにハメんとアカンわって」


「うるせぇ! 何処の馬の骨ともしらない底辺配信者のくせに!」


「やめてください、他のお客様に迷惑ですので受付口のほうでお願いします!」


「じゃかぁしいわ!!」


 マズい。すぐさま腕を振り上げた刺青のほうを抑えにかかる。


「何をしてんの?」


「あ、何処のもんじゃテメェ?」


「ヒンデガルトのダンジョン探索者、アリヴァ・イズラーイールってもんだ。なんか探索中のトラブルっぽかったもんでな」


「誰だぁ、お前?」


 おっと、どっちもオレのこと知らないみたいだ。


「え、本物?」


「何でここに?」


「いまはネフェタルって配信者の裏方やってるって」


 まあでも野次馬の方はザワザワし始めていたし、スタッフの方も安心し切った表情を浮かべている。


「んで、状況を教えてもらえると助かるんだけどな」


「カタギが首突っ込むことじゃねんだわ、兄ちゃん」


「おいアリヴァ! ボコボコにすんぞ!」


「口悪いなぁ、どこ出身だよアンタら」


 そう少し煽ってやると、顔を真っ赤にしたゴロツキ達が一斉に飛びかかってきた。

 もちろん受けるつもりはない。

 そんなことをしたら向こうの腕が壊れてしまうから。


「よっ、ほっ」


「逃げんなボケェ!」


「アリヴァのくせに生意気だぞ!」


 ギリギリのところで身体を逸らし、拳に空を切らせてやる。

 あと、ここは田園のあぜ道だ。

 だから端に追い詰められたところで、突撃してくる奴らに足を引っ掛けてやると。


「ぬおっ!?」


「ギャーッ」


「あーあー、こりゃひでえや」


 頭から田んぼに突っ込んで泥だらけ、というわけだ。


「アハハハハ!!」


「いいぞアリヴァー!!」


 迷惑客の無様な姿に、野次馬のボルテージも上がってゆく。

 まあカメラマンは仲間の醜態ではなく、まるで殺人犯でも映すかのようにオレの顔へレンズを向けているわけだが。


「ちょっとは頭冷えたろ。そんで、本当はどっちの宝箱なんだ」


「ワシのもんや」


「俺様のだ!」


 見事に平行線だなこりゃ。

 どうしたものかと頭を抱えていると、群衆の中から、オドオドと少年が手を挙げながら前に躍り出る。


「そ、それ……ぼくが見つけたん、です。田んぼに、落ちてて、拾ってきたら、イチャモンつけられて」


「おぉワシが悪いって言うんけ。おぉ!?」


「うるせぇ! お前の物は俺の物だ!」


「なるほどなぁ。どっちも迷惑系ってワケか」


 たまに居るんだよな。こうして人に迷惑をかけている様をネットの海に不法投棄する輩が。

 しかも、泥で汚れたうえボロボロの服と靴の子供に対して。体験チケットのリストバンドだが、きっと家族総出で奮発して思い出作りに来たんだろうな。だのに輩に絡まれて、かわいそうに。

 怒りが湧き上がってくるが、オレは正義執行系でも私人逮捕系でもない。

 ダンジョン配信者らしく、場を収めなければな。


「まあそんなことは良いとしてさ。お前ら、ここのノーマル箱から何が出るか知ってんのかよ」


「あ? カネになるもんやろ」


「秘密の道具が出てきたりしてな!」


 あー、マジで知らないのね。


「なら今開けてみな。それで中身を見て、欲しいならジャンケンか何かで決めればいい」


「えっ」


「アリヴァさん、それは規則で」


「まあまあ、ここは大目に見てよ。じゃないと収拾つかないし」


 特例措置を生放送するのもアレだけど、この輩を排除するには恐らくこれが一番穏便かつ手っ取り早いだろうから。


「なら少し早いがぁ、開封の儀と行くかのう」


「レアもん来い……!」


「良いものが出ればいいけどな?」


 ゴロツキ共の興奮。野次馬たちの身震い。

 少し泣きそうになる子供を宥めながら、オレは開封される様をニヤリと見守る。


 そして、木の箱から出てきたのは。


「ゲッ、何じゃこりゃあ!?」


「くっせ、オエーッ!?」


「この形……まさか、犬のウ○コ!?」


 山盛りになった愛玩動物の排泄物だった。

 恐らくどっかのアホが回収し忘れたものを、ダンジョンが宝物と見做してしまったのだろう。


「体験エリアの箱からは、基本的に日用品かゴミしか出ねえんだぜ?」


 周りの反応も小馬鹿にした笑いを浮かべる者、そして分かっていたと言わんばかりに頷く者とマチマチだ。

 まあ、結果が知れればやることは一つ。


「さて、お前らはこんな子供から犬のフンをカツアゲしたワケだが……どうするんだ?」


「うげぇ! おいテツ、配信中止じゃ!!」


「どこ行くんだよ兄貴ぃ〜っ!!」


「か、母ちゃ〜んっ!」


「あ、待ってよシャイタ〜ン!」


 そしてメンツが丸潰れになったゴロツキたちは、揃って尻尾を巻き逃げていった。


「アリヴァさん、ありがとうございました」


「そっちこそ、いつもダンジョンのメンテありがとうな。それより」


 今にも泣きそうになっている子供が可哀想だ。

 野次馬も迷惑系配信者の背中に暴言を浴びせるばかりで、周りが見えていない。


「勇気を出して偉かったな。宝箱を取りに行って、しかも悪い奴らにも臆さず本当のこと言って。凄いじゃねえか」


 だから、彼のもとへ赴き膝をついて、頭をクシャクシャと撫でてあげる。


「で、でも……犬のウ○コだったし」


「そんな小さな探索者にプレゼントだ」


 すかさず道具箱アイテムボックスをガサゴソと漁り、院の子供たちも大好きなお菓子の袋を渡す。


「わあっ、チョコレートキャンディだ!」


「スーパーで売ってるようなやつだけどさ、ここの木箱からも出るんだぜ? それに犬のフンだって、笑い話に出来るじゃねえか」


 ニシシと笑顔を見せてやると、周りの大人たちも気付き始めたのか、彼に歓声や拍手を向け始めていた。

 そして両親も駆けつけ、良くやったな、とその子に激励を贈っている。


「思い出ってのは、良い物も悪い物も積み重なって人生を作っていくもんだ。そして君が出した勇気は、こうして多くの人が祝福してくれる、良い思い出に繋がった」


 悪い思い出が積み重なって、盗みに走るような子供なんざもう見たくない。

 けど、この子ならきっと大丈夫だ。


「カッコよかったぜ。これからも失敗を恐れるなよ」


「……待って!」


 女王の後を追いかけようと立ち上がったとき。


「サイン、くださいっ!」


「もちろん。最高の秘宝をプレゼントしてやるよ」


 再び少年が見せた勇気に、オレは笑顔で応えてみせた。


〜〜〜〜〜〜


「遅い」


 ネフェタル達は、もう既に探索エリアの入り口に到着していた。

 どれくらい雑談していたのだろうか。機嫌の悪い配信者とマネージャーを目にし、申し訳なさが溢れてくる。


「悪い、ちょっとヤボ用でな」


「下らぬ嘘は吐くな。全てコメント欄で把握しておる」


“アリヴァの対応がマジで神だった、トゥイスターに動画あるよ”

“貞操以外は完璧な男じゃん”

“迷惑系ざまぁw”

“続きはここでおk?”


「……あー」


「妾より目立つな。格好の良いことをしおって」


 浮かび上がるコメントと共に、女王様がそっぽを向いてしまう。

 しかし、その姿は表情を見せたくないとでも言いたげな様子だ。


「とはいえ。その幼子を思いやる心。褒めてやらんでも、ない」


「おっ、ツンデレか?」


「うるさいわ! 次は無いと思え、次は!!」


 まあ迷惑をかけたのは事実だ。

 今後は一言入れるなり、注意しないとな。


「揃ったことだし。そろそろ突入するよ」


「そうじゃな。では征くぞ、これより先は探索者の領域。女王の凱旋を目に焼き付けるがよい!!」


 ここから先は観光客向けのエリアとは違い、魔物モンスタートラップも危険度が段違いに高くなる。

 その分、スリルとロマンのある配信を提供できるってもんだ。


 つまり、配信者としても探索者としても、ここからが腕の見せ所。

 ネフェタル女王の底力、見せてもらおうじゃねえか。

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