#12 親母は強し
かつて、ディムル・イズラーイールはヒンデガルト国の大英雄として名を馳せていた。
2メートルを越す巨躯の強面で戦場を駆け回り、財宝と女を好むが人一倍人情に厚かった豪快な漢。
アブドゥールさんは子供のときから彼の背中を追いかけ続け、その男気溢れる姿に憧れては挫折し、それでも夢を捨てきれなかったのだと耳にタコが出来るほど聞かされてきた。
「え〜ひっどぉい。ヴァタシ、まだまだ現役バリバリよ〜? ほぉら、ユロピアのイケメン捕まえたついでに、お土産買ってきたんだから」
それが、強力な
「妾の謝意を返せこの下郎ども! なに葬式の如き雰囲気で恩人を語っておるのじゃ、貴様らには先人を敬う気持ちが無いのか!?」
「ヤダもお〜。ヴァタシ、まだ先人って呼ばれる歳じゃないワ? 59歳だけ、どっ」
「おいアリヴァ。妾はコイツを男や女と、いや人として認めとうない!!」
「ははは……ノーコメントで」
「こんなゴリラみたいな筋肉してるのに、もう2度と戦えないんだぜ」
「もう、あのカッコいい英雄ディムルは死んだんだよ」
「いやん、ひっどぉい! ブッ殺しちゃうゾ☆」
「逆に妾が貴様らブッ殺してアリヴァと同類にしたろうか!?」
いつも以上にネフェタルがブチ切れているような気がする。
先ほど『英霊の魂』がどうたら言っていたから、恐らくは古代メフィスト王国の地雷でも踏んだのだろう。
「おい落ち着けって。言ってなかったのは悪かったからさ」
「悪かったで済むものか! メフィストにおいて英霊の冒涜は最も許されぬこと、それを貴様らは!!」
「言われてないしわかんねえよ! 次から気をつけるからさ!!」
「ぐぬぅ……!!」
納得できないがするしかないといった様子で唸り声をあげている。
しかし参ったな。互いのためにも、もっとメフィストの文化について知っておく必要があるな。
「なあ、メフィスト王国のことなんだけど」
「待ってちょうだい。貴女、古代メフィストのことを知っているの?」
「え?」
そう口を挟んできたのは親母だった。
「知っているも何も。妾はメフィストの王族であるぞ」
「なるほど……本当にあったとはね」
「っ?」
「メフィ族の地と書いてメフィスト。ヴァタシも詳しい時代は分かっていないけど、存在したとされている国ね」
「されている?」
どうしてここでぼかしたのだろうか。
そう疑問を投げようとしたが、先に動いたのはネフェタルだった。
「何か知っておるのか
「待て、まだ断定じゃないだろ!」
「それでも!」
「ごめんなさいね。秘宝として出土したのは、古代アッカラム帝国の粘土板。それにメフィ族との闘いが少し記されていたくらいなの」
「……っ!!」
「アッカラム帝国……たしかメフィストの敵国として名を上げていて、しかもネフェタル曰くオレらと肌や髪が似ている、とか」
「私たちの祖先ってこと?」
「いいや、歴史の授業でも習ったことないな。これでも今と違って学校は真面目に行ってたし」
「そもそも
「……残せなかったのよ。今まで常識だと思っていた歴史が間違いだって発表されたら、世界が混乱しちゃうもの」
たったそれだけで?
なら、いつもオレたちが宝箱から手にしている秘宝はどうなる。あれこそ現代科学では解明できないオーパーツだらけだろう。
「年代鑑定をしたところ、少なくとも3000年以上は前の代物だってわかったわ。人類の起源を主張しているアレが2000年ほど前だから、それよりも古いって言っちゃうと」
「っ、なるほどな。そりゃダメだ、絶対に」
「すまんアブドゥールさん、オレらにも分かるように言ってほしいんだけど」
おじさん連中が顔をしかめる理由がわからない。
思わず答えを求めたが、中年期真っ只中なシワだらけの口は重く。
「……ブリティ王国」
「ッ!!」
そして呟かれた一言だけで、オレもミティアもスイッチが切り替わったかのように険しい顔となった。
「ぶり、何と?」
「オレが産まれる前のことだが、この国を植民地に置いていやがった大国だ」
「ディムルが英雄と呼ばれる所以でもあるな。ブリティ兵を追っ払って、ヒンデガルトの独立を確約させたんだからな」
「タブーみたいなものだから、あまり触れたくはないけど……もし機嫌を損ねてしまったら、また攻めに来る可能性もある」
いずれ古代メフィスト王国の復権を宣言したとして、正当性が国際的に認められなければならなくなったわけだ。
自称最古の国として面子が丸潰れとなったブリティ王国は、かつての植民地へ必ず何らかの措置を取ってくるだろう。
「……そこまでの大国なのか。しかしアリヴァは最強なのじゃろう?」
「オレ1人ならな。けど、軍隊相手となると流石に厳しすぎる」
「迷宮を踏破する探索者と、広い世界で戦争をする軍隊はわけが違うからね。それに、秘宝と人殺しの道具は用途が全く異なってくるし」
大軍をダンジョンに送り込んだら
だから一騎当千の猛者を数名のみ送り込む方法が主流となっているのだ。
「まあその分、ヒーロー性は出るからな。だからこそダンジョン配信は盛り上がるコンテンツになりうるってわけ」
「そういうコトよ。あと、ネフェタルちゃんだっけ?」
「ちゃん、とは何じゃ。妾は女王ぞ?」
オレも視聴者も「ネフェたん」って呼んでるし今さらだろ。
「アンタすごいバズってるじゃない。次はカウサーに行くの?」
「如何にも。しかし何故わかった?」
「ここいらのコの初配信は大体カウサーだもの。それに」
親母が真剣な面持ちで告げた。
「アッカラムの秘宝が出土したのも、そこからだしね」
「ッ!!」
バッとネフェたんがオレの方を向く。
なるほど、これも運命ってわけか。
「アリヴァ、行ってあげなさい。壊しちゃった修道院は、ママが直しといてあげるから」
「っ、でもアンタ力仕事はもう」
「これくらいなんてコトないわ。その代わり、帰ったらお説教が待ってるからね」
「うっ」
やっぱりオレが壊したこと、バレていた。
罪悪感で目を逸らしかけるが。
「ネフェタル女王のこと、よろしく頼むわね」
眉をくしゃっと歪ませたディムルさんに、そう頼み込まれてしまった。
親父だったときから、隠し事をしている時はいつもこうだ。
「……当然だ」
何を隠しているかは、きっと考えればすぐにわかるだろう。
だがそれを彼女に悟られてしまったら、きっと一生後悔する。
だから今は、ただ女王を守る戦士でいればいい。
「オレは、ネフェタル女王の奴隷だしな」
「ふっ、良くぞ申した。それでこそ妾の誇る奴隷じゃな」
「今回は私もカメラマンとして現地に入る。配信者のサポートをするのがマネージャーの仕事だからね」
頼もしい臣下を引き連れ、ネフェタルの遠征が幕を開けようとしていた!
「ウフ。若いって良いわね」
「全くだな」
……のだが。
「ん、でもD級だぜ? オレが居ると盛り上がりにかけるんじゃねえの」
「というか、ネフェタルは古代のミイラだから少なくとも若者では」
「何じゃと、貴様はまだ19の小娘ゆえ、女に年齢を訊く無礼がわからぬのじゃ!!」
「このガキども、良いからさっさと行って来なさぁいッ!!」
「は、はひぃ!!」
……最初から前途多難になりそうだが、ネフェたん初めての登録済ダンジョン探索が始まろうとしていた。
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ここまで読んでくださり、ありがとうございます。
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