#05 人型ダンジョン攻略RTA 1/2

「うわああああっ!!」


「逃げろおおおっ!!」


 パニック状態の人波に逆らい、オレは現場へと急行する。

 人がダンジョンになった、だなんて悪い冗談だ。


「……真実マジかよ」


 現実から目を背けたかったが、目の前に広がる15メートルほどの肥大化した肉塊を見て、そうも言ってられなくなってしまった。

 蠢くソレは、オレが息を呑んでいる間にもブクブク膨れ上がっている。


『キシェエエ!!』


「フッ!」


『ジェ!?』


 なるほど。口から魔物が出てきたから、ダンジョンだと思ったわけか。

 幸い出てきたのは数体のホーネット、D級の虫型だから一瞬で対処できた。

 コイツは市販の殺虫剤でも討伐可能だ。しかし、もし出てくる魔物のランクが1つでも上がってしまうと、死傷者も出てくるかもしれない。


「……アンタ街を守るポリ公じゃねえのかよ」


 そしてダンジョンにされたのは、さっき会話を交わしたばかりのアブドゥールさんだ。

 肉塊に生えた手足、そして張り付いた青い服とサングラスには見覚えがありすぎた。


「妾を、置いて、ゆくで、ないっ」


 どうしたものかと頭を働かせていたとき、ネフェたんが息を切らせなから追いかけてきた。

 ミイラになっても肺活量の問題は伴うらしい。


「悪い、緊急だったからな。アレが件の人間ダンジョンらしい」


「ぅうわ、キショおっ!? 彼奴あやつは神を何柱冒涜したのじゃ!?」


「……酒の神昼間っからビール労働の神サボってSNS、そして愛の神妻子持ちなのに不倫だろうな」


「もう死罪で良かろう、そげなクズ!!」


 まあ、ある意味極刑より極まった刑罰だろうな。

 だけどダンジョンとなった以上、未登録ダンジョン配信者のオレが黙っているわけにもいかない。


「待て待て待て、まさか中に入るとは言うまい!?」


「中に入る」


「言いおった……」


「侵入ルートは口から。ホーネットも出入りしているし、使わせてもらう」


「しかし、人間じゃぞ……生きておるのじゃぞ、気持ち悪くて堪らぬわ」


「ダンジョンの難易度自体は大したことない、せいぜいDかC程度だ。ただ」


「ただ、何じゃ」


「それはダンジョン内で自由に暴れられればの話だ。そんなことをしたら、アブドゥールさんの身体がバラバラになっちまう」


 壁や床に一切触らず攻略する。避けられたら内臓へダメージが行くため、射撃攻撃にも制限がかかる。

 そんな縛りを科すとなると、難易度は一気に跳ね上がるだろう。


「待て、先ほどから攻略前提の話をしておるが。ダンジョン化が解けるとでも言うのか!?」


「お察しの通りだ。アブドゥールさんのダンジョン化を解く」


「我が王墓のダンジョン化は解けておらぬじゃろう、ならば何故此奴のダンジョン化が解けると!?」


「もともとダンジョンは生き物みたいなものだ。魔物モンスターと宝箱は支柱みたいなもので、これを守るため、姿かたちを常に変え続けている」


「……つまり全ての魔物モンスターを倒し、かつ宝箱を開ければ」


「ああ。支柱を失ったダンジョンは消滅して、元来あった環境が元に戻る。完全攻略オールクリアってやつだ」


 ただ、この国ではダンジョンを観光資源にもしているため、特別な理由でもない限り完全攻略は禁じられている。

 だからネフェタルの眠っていた遺跡も、まだダンジョン化が解けていない。

 いずれスフィンクスも財宝も復活するだろう。そのときは、彼女のよく知る神獣と同じかは分からないが。


「助けるために法を犯すというのか。そこまでの価値が、此奴に有ると?」


「価値云々じゃない。さっきも言ったろ、世話になってる街の皆は死なせない。それに」


「それに?」


「……配信中に私情を挟むのは良くないけどな。この人だけは、絶対に死なせたくない」


 らしくないよな。そんなことはわかってる。

 すぐに愉快な最強配信者の顔に作り直さないと。


「〈セット:ネズミの小槌〉」


「……待て」


 身体を小さくする秘宝を使おうとしたところで、ネフェたんが真剣な面持ちで声をかけてくる。


「ん、どしたん。話聞こか?」


「……妾も征く。元より此処はメフィストの国土、故に国民は女王が助けねばならぬ」


「へぇ? まだカメラ回ってっから、強がってるもんかと思ったがな」


「んなっ!?」


 ネフェたんが驚愕の目を、フワフワと宙に浮きカメラを構えているスマートフォンへと向ける。


“いぇーい、ネフェたん見てるー?”

“ガチ困惑で草”

“アリヴァのスマホは自動追尾モード付いてるからね笑”

“顔が良い”


「どうやって終わらせれば良い、というか人型ダンジョンなど映して良いものなのか!?」


「映しちゃったもんは仕方ないし、ここは緊急企画と洒落込もうじゃねえか」


「緊急?」


 呆けている彼女からスマホを奪取し、すかさず小槌で互いの身体を小さくしながらライブ配信のタイトルを変更する。

 題名は『人型ダンジョン攻略RTA』。

 最速でダンジョンにされた知り合いを助け、今後同類の案件が出てきたときのための前例を作る!


「人型ダンジョンを攻略するRTA、はーじまーるよー!」


「突然棒読みになるでな、ぁぁいぃっ!?」


「しっかり掴まってな、女王サマ!」


 ゆっくりとした号令の直後、オレはネフェたんを抱えて光線ビームの如くオッサンの体内へと突入した。

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