#04 アリヴァの主人たる女王です。この度は奴隷が申し訳ございません。
エメラルドのあしらわれた宝箱に納められていた古女王、ネフェタルへの一目惚れからのキス。
これにより大絶賛炎上中のオレは、どう収拾をつけるか頭を悩ませていた。
「自業自得じゃろう」
「そうだけどさぁ……
聞くところによると、アレを耳にしたら視聴者の命も怪しかったらしい。
女王サマにとっちゃその方が都合良かったみたいだが、こっちからすりゃあ視聴者が大量に亡くなるなんて最悪もいいところだ。
「結果的にオレ以外の死者が居なかったから良いものの。まずは謝罪動画だよな」
「許しを乞う程度で恩赦が得られると? 目には目を、歯には歯をという
「いま現代だからね!? 法律には反してないけど倫理的にはアウトだから謝罪しないとなの!」
「やはり良き時代なのじゃな。メフィストの世ならば悪辣な口を頭蓋ごと横に斬り落としておったぞ」
「き、去勢よりエグい……!」
実質斬首刑じゃねえかそんなの。
「まあ良いわ。この時代では『配信』とやらが流行っておるのじゃろう?」
「オレは今すぐ謝罪しないと配信者続けられないんだけどね」
「であらば、単純なことよ」
そう悪い笑みを浮かべたネフェたんの手にしていたものは、茶色いカバー付きのスマートフォンだった。
「っ、それお前!?」
「無意識下でも想起できる知識なら共有できると言ったはずじゃろう? 貴様のスマートフォンを拝借させてもらった」
油断していた。いつオレの端末くすねやがったんだ。
まだサブ端末だったのは有情か、いや違う。
「コレをこうしてチャンネル開設して、と」
「おま、マジでソレはヤバい! オレのチャンネルで、オレの口から謝罪しないとマジで更に燃えるから!!」
「配信開始、と」
「おぉい聞けよ!!」
暴れ馬のような彼女を止めることはできず、配信が始まってしまった。
すかさずメイン端末で確認すると、しっかりアカウント名は『ネフェタル・メフィ・アスラー・エヌ・オ』とフルネームで登録されているし、オレの姿も映ってしまっている。
だがサムネイルは初期設定、タイトルも『
「お前配信舐めてんのか!? こんなんで数字取れるわけねえだろ!!」
「うぅわ唐突に沸点を変えるでない!!」
「だいたいな、いくら顔が良いからって何しても許されると思うなよ!? もっかい言うがな、オレがオレのチャンネルで視聴者の皆に謝らないと意味ないし、そもそも初心者の配信なん、て……」
“アリヴァにキスされてた人? 本物?”
“めっちゃ顔が良い!”
“古参振るためにチャンネル登録しました”
“あれドッキリだったんですか?”
一瞬で青ざめてしまった。
すっかりボロ布を脱いで派手ケバ衣装を露わにした彼女の美貌は想像以上で、ロケットでもブチ上がったのかと思うほどに同接数が伸びていったのだから。
1000、5000、10000……こんな初配信で万バズ?
冗談だろ、オレが同接ここまで稼げるようになったの配信始めてから7年くらい経ってからだぞ?
「
「え、おま……へぇ?」
“最強さん真っ青で草”
“てか結局どういう関係なんだよ”
“アリヴァには状況を説明する義務があります”
“あの固有レア箱はドッキリだったの?”
「む、これがコメントとやらか。やはり妾と此奴の仲を知りたがっておる者ばかりか」
“のじゃ系でその衣装、かなりキャラ作ってんねえ”
“顔が良い”
“
“お尻が弱そう”
「ッッ!!」
血の通っていない血管が、ビキビキと顔に浮かんでいる。
それもそのはずだ、インターネットの住民は大抵、匿名なこともあって礼節というものを知らない。
首を垂れる民の姿ばかり拝んできたであろう女王にとって、これは不快極まりない光景なのだろう。
――現に奴隷ミイラのオレは、ブチ切れた飼い主の放つ得体の知れない瘴気に当てられ、魂が恐怖で潰れそうになっている。
「控えよ下民ども。偉大なるメフィの血を継ぎしメフィストの女王、ネフェタル・メフィ・アスラー・エヌ・オの御前であるぞ」
“そういうキャラ?”
“メフィスト王国(ヒンデガルト)”
“やっぱ
“どこ所属? やっぱWDO?”
「やめとけ。むしろ逆効果だ、さらに煽られるだけだぞ」
「であらば殺すまで。
「……ならば、その前にオレが首を刎ねるまでだ」
「ほう?」
矛先がオレに向いた。
直感でわかる、彼女が指先ひとつ動かすだけで下僕のオレは即死するだろう。
だからオレもマジで向き合わなきゃならない。
「視聴者は誰も殺させないし、世話になってる街の皆も死なせない。それがオレの流儀なんでな」
「罪は裁かれねばならぬ。例外はない」
「
「っ……!」
図星のようだ。少し頬を緩める。
「配信を始めたのも、奴隷のオレを想っての行動だろ? その気持ちには感謝してる。けど、ネフェタルは現代の知識だけは多少ある
「しかし、民を導くのが王の責務!」
「オレは民を信じるのも、また王の務めだと思うぜ」
「ッ……!?」
そんな考えは全くなかったようで、青天の霹靂といった表情を浮かべている。
今まで誰にも頼れなかったのだろう。そんな孤独のまま、あの王室に独りでウン千年も干からびていたのだ。
ならば一目惚れしてキスしちまった責任、取ってやらなきゃ男が廃るってもんだろうよ。
「お前ら聞いての通りだ。オレは彼女、ネフェタルの奴隷となった」
“は?”
“説明になってなくね”
“交際発表!?”
“奴隷てw”
「大マジだぜ。あの遺跡ダンジョンの最奥部で昼寝をできるだけの実力はあるんだ。しかも美人ときたら、もう跪くしかないだろうよ」
“まあ、あんたほどの実力者がそう言うなら……”
“↑サクラか?”
“でもさ、いつも女性問題で燃えたときは謝り倒すだけだったじゃん”
“あの配信も、緊急で切っていたみたいだし。何かあったのかな”
察しがいいな。ただオレも燃えている身だ、誠意を見せるくらいはしないと。
「でも世俗には疎いようだから、どうか長い目で見てやってほしい。オレも女王を、全力でサポートするから」
コメントは、まばらだった。
肯定的な意見もあれば、否定的な意見もある。
それぞれの陣営同士での言い合いもある。
だが拍手も罵倒もない、そんな静かで淡白な時間が過ぎていった。
この間の同接数は、およそ7万人。彼女の初配信はダンジョン探索もないのに、いきなり世界的な大バズりをしてしまった。
修羅場もあったからか、面白半分に見にきた野次馬も居ただろう。
だが、古代メフィスト王国について有力なコメントをした者は居なかった。「ここヒンデガルトですよ」という茶化しだけだ。
彼女の王国の再興は、想像以上に骨の折れる作業になるだろう。
「もう、よい。これからは、妾もダンジョン探索をすればよい話じゃろう」
「まあな。実力はあるんだし、まずはライブ配信に慣れるところから――」
今後の予定を話し合っていた時だった。
「こっちでアリヴァが配信やってる!」
「居た、頼む助けてくれ!!」
「どうした、なんか騒がしくなってきたけど!」
息も絶え絶えになった街の人が、アゴをカチカチと鳴らしながら惨事を告げる。
「ダンジョンに……人が、ダンジョンになって……!!」
「何だと!?」
荒れるコメント欄や狼狽するネフェタルにも目もくれず、オレは逃げ惑う人々に逆らうようにして駆け出した。
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