第43話 神山くんのとなり

 翌朝。バスに乗り込むと、神山くんがいつもの席に座っていた。


「やっと乗ってきたな」


 神山くんはしっかり制服を着ていて、見ないあいだに前髪も短くなっていた。

 そのせいで、おでこの傷あとがあらわになっているけど、もう気にしてないみたい。

 神山くんのとなりに座ったのはたった二週間ぶりなのに、なんだかそわそわしちゃう。


「コンクール、うまくいったか?」

「うん! 日向先生が、受賞は確実だろうって!」

「そっか。ま、あんたと凛の実力なら当然だろ」


 それから私は、凛ちゃんと一緒に絵を描くのが、いかに大変だったかを熱弁した。

 神山くんはときどき笑ったり、驚いたり、感心したりしながら、話を聞いてくれた。


「凛は相変わらずだな。よく友だちとしてやっていけるよ」

「ふふ。今度、美術部に遊びに来てね。神山くんにも完成した絵を見て欲しいんだ」

「ああ。またしばらく学校に来られなくなりそうだしな」

「えっ? どういうこと?」


 やっぱり、まだ学校に来るのはつらかったとか?


「そんな心配そうな顔すんなよ。頑張ってたのは、あんたらだけじゃないんだぜ」

「あっ! もしかして、オーディション受かったの!?」

「主役を勝ち取ってやったぜ」


 わああ! さすが神山くん!


「あんた、自分のことみたいに喜んでるな」

「だってそりゃあ……友だちの夢が叶ったんだから当然だよ」

「ふうん? 友だち、ね」


 神山くんは、なにか言いたげだ。


「……そういや、結局オレのことを描いた絵はどうなったわけ?」

「日向先生が、ちがうテーマのコンクールに出品しないかって」

「へえ? なんのテーマ?」

「チラシだけもらって、私もまだくわしく見てないんだ」


 昨日は、凛ちゃんとへろへろになりながら家に帰ったから。


「たしか、チラシをスケッチブックに挟んであったはず」


 私はカバンからスケッチブックを取って、チラシを広げた。

 だけど、その『テーマ』を見た瞬間、バクッと心臓が飛び上がった。

 なんですか、これは。


「なに? なんて書いてあったんだよ?」

「わわわ私ったら、間違えて持ってきちゃったみたい!」

「はあ? バレバレのうそつくなよ。本音でしゃべるんじゃなかったのか?」

「言えないこともあるの!」

「わけわかんねえ。いいから、見せろって」

「いや、だめだってばーー!」


 でも、そうやってさわいでいるうちに、神山くんの足元にチラシが落ちてしまった。


「わー! 見ちゃだめ!」

「そんな隠すことか? ただのチラシだろ?」


 そうなんだけど! そうなんだけどーー!!


「全国女学生美術展、ね。テーマは……『初恋』?」

 神山くんの表情がかたまる。


「これって、つまり?」

「いや、えっと、これは、その」


 全身が沸騰しそうなくらい熱くなっていく。

 神山くんは何も言わない。

 だけど、その耳はいままで見たことがないくらい、真っ赤になっていた。

 この気持ちを告白するには、もうすこし時間がかかりそう……かな?

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