第42話 タイトルは…

 コンクールの締め切り当日。

 ようやく仕上がった絵を前にして、私たちは美術室の机に突っ伏した。


「もう無理……。腕、あがらない……」

「あたしも、超つかれた。……でも、いい絵が描けたわね」

「……ほんとだね」


 絵を描きすぎて筋肉痛になったのははじめてだ。

 二人で描き終えたキャンバスを、じっと見つめる。


「凛ちゃんがしっかり下描きを描いてくれたから、しっかりした線が引けたよ」

「菜月さんの色彩センスがなかったら、ここまで個性的な絵にはならなかったわ」


 キャンバスには、『二人が絵を描いているところ』を描いた。

 私は凛ちゃんを、凛ちゃんは私を。


「私、こんな仏頂面で絵を描いてる?」

「あたしの顔だって、ちょっと口が曲がりすぎじゃない?」

「……描きあがったんですって?」


 ひょいっ、と日向先生が美術室の入り口から顔をのぞかせた。

 私たちは思わず飛び上がって、その場に直立する。

 うわーー! 緊張で心臓が爆発しそう! 

 どうか、出品させてもらえますように!

 祈るような気持ちで、私たちは先生が絵をながめるのを見守った。

 先生は、じっくり上から下まで入念にチェックしていく。


「ふうん。この絵のタイトルは?」


 先生から尋ねられて、私たちは顔を見合わせる。

 そういえば、描くのに夢中で決めていなかったっけ。

 でも……言わなくてもわかる。

 タイトルは――。


「『ライバル』です!」」


 日向先生は、にっこりとほほえんでくれた。


「うん。とてもいい絵です。出品させましょう」

「やったあ!」


 私たちはぎゅっと抱きあって、そのまま床に座り込んだ。

 美術部のみんながパチパチと大きな拍手をしてくれて、感動で胸がいっぱいになる。

 私はやっぱり、絵を描くことが大好き。 

 これからも、ずっとずっと描き続けたい。

 そして、この気持ちを伝えたい人は、もう決まってる。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る