第41話 二人の絵

 それからはすごく大変だった。

 簡単に合作とは言うけど、ちぐはぐな絵を描くわけにはいかない。

 二人で一緒に美術部に入部しなおすと、これでもかってぐらいラフスケッチを描きあった。


「この間ケンカしてたみたいだけど、仲直りしたんだ?」


 自分の絵を描き終わった辻先輩が近づいてきて、興味しんしんって感じで訊いてくる。


「そのことはもういいんです」

「先輩もあんまり油断してると、あたしたちが賞を取っちゃいますよ」

「まさか、今からコンクールの絵を描き直すつもりか? さすがにそれは……」


 私たちは、同時に辻先輩を振り返る。


「「先輩、絵のジャマです」」 

「はい……」


 あと十日でコンクールの絵を仕上げるなんて、無謀なのはわかってる。

 美術部のみんなも、絶対ムリって言いたげだ。


 でも、あきらめたくない。何がなんでも、出品させてもらうんだ!


 私たちは、しぶる日向先生へたくさんラフを描いて提出した。

 締め切りまであと七日ってところで、ようやくOKをもらうことができた。

 キャンバスに向かう私と凛ちゃんの手首は、シップだらけ。

 消しゴムで下描きを消すのさえ、ズキズキ痛む。お母さんにも心配されちゃった。

 でも、日向先生に交渉して、朝早くから美術室の鍵を開けてもらうことができた。

 おかげで、私はバスの時間を三本も早めて学校に登校することになったけど。

 せっかく学校に通い出した神山くんとは、あの朝以来、顔を合わせていない。

 でも、今はコンクールの締め切りに間に合わせる。それだけしか考えられないんだ。


 × × ×


 しーんと静まりかえる早朝の美術室で、私と凛ちゃんは夢中で絵筆を動かす。

 締め切りまで、あと四日。

 ぴったりと椅子をくっつけあって、二人で同じキャンバスに色をぬる。


「痛っ!」


 となりで凛ちゃんが手首をおさえながら、パレットを落としてしまった。


「わ、大丈夫? 休憩する?」

「これくらい平気。菜月さんには負けられないし」


 不敵に笑う凛ちゃんに、私もふつふつとライバル心が芽生えていく。


「私だって、負けないから」


 合作のはずなのに、どっちが上手に描けるか。

 いつの間にか、そんな勝負になっていた。


 × × ×


 締め切りまで、あと二日。


「菜月さん、その制服の色は奇抜すぎるわ。合作だから、統一性がないのも困るんだけど」


 凛ちゃんが、キャンバスをとんとんと指で叩く。


「凛ちゃんも塗りが雑すぎるよ。ここ、絵の具の色が混ざっちゃってる」

「うっ。これはあたしの個性なのよ」

「そう言って、直すのが面倒くさいだけでしょ」

「……言うようになったわね、菜月さん」

「思ったことは、ちゃんと言うって決めたから」


 ふふっと、二人で笑い合う。

 絵を完成させたいけど――ずっとこのまま描いていたい。

 絶対に負けたくないものに全力を出すって、こんなに楽しいことだったんだ!

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