第38話 変わらなきゃ

 夢中でしゃべったから、あんまり覚えてない。

 神山くんは口元を手でかくしながら、照れたようにそっぽを向く。


「ま、いいや。だいたい話はわかった。でも、凛はあんたのことをきらいだって言ったの?」


 はっとした。

 言ってない。凛ちゃんは、そんなこと一言も私に言わなかった。


「前の学校の親友のこともそうだけどさ。あんたって――自覚ないときはかなり素直だけど――自分の本音も言わないうえに、勝手に人のことも決めつけてないか?」


 ――『いいの。やっと菜月の気持ちがわかって、ほっとしたから』

 

 亜衣の言葉がよみがえる。

 

 ――『うそつき』

 ――『菜月さんは、神山くんのことも好きだし、絵だって本気で上を目指しているくせに!』


 そうだ。私はいままで、友だちに本音でぶつかったことなんてなかったかもしれない。

 亜衣にも、凛ちゃんにも自分の気持ちを一言も話してなかった。

 本当は、絵が上手な亜衣のことがうらやましくてたまらなかったのに。

 誰よりも負けたくなかったのに。

 いつも二番でいいよって顔をしてた。

 神山くんのことだって、私も凛ちゃんとおなじぐらい好きなのに。


 応援するよ、なんて……。


 心のどこかで本音を言ったらきらわれちゃうって、決めつけていたんだ。

 これじゃあ、すれちがって当たり前だ。


「私、凛ちゃんと仲直りがしたい」

「なら、やることは決まってんじゃねえの?」


 神山くんはぶっきらぼうに言って立ち上がる。

 もう、ふるえていなかった。

 そのまま一緒に、となりの教室までついていく。

 神山くんはすこしためらったあと、意を決したように教室の戸を開けた。

 ゆっくりと、教室へと足を踏みだす神山くん。


「えっ、神山!?」「久しぶりじゃん!」


 教室の中にいた人たちのざわめく声が聞こえてくる。

 それはまるで、ドラマのワンシーンみたいで。

 友だちにかこまれて、楽しそうに笑う神山くんのうしろ姿をみつめる。

 もし、『ヒカリ・スクール』の最終話があるなら、きっとこんな感じだったんじゃないかなって思うくらい、神山くんの背中はまぶしかった。


「私も、がんばらなきゃ」

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