第37話 神山くんの心
「神山くん、なんでここに?」
「あんたが、逃げてるからだろ」
神山くんは、そのまま深呼吸して教室に入ってくると、近くの席に腰かける。
私はあわてて席を立って、神山くんに歩み寄った。
「神山くん、大丈夫? 学校はトラウマなんじゃ……」
すこし顔色がわるいし、手もかすかにふるえている。
「ああ。大したことねえよ。……それより」
ギロッと睨まれて、体がすくむ。
「あんた、一週間前のこと覚えてるよな?」
ぎくっ!
「絵なんか描かなきゃよかったって言われて、オレすっげえムカついたんだけど」
「うっ。やっぱり怒ってる?」
「当たり前だろ。しかも、あれから全然バスに乗ってこないし。さらにムカついた。内心じゃ、オレのことウザイって思ってたんだろうなって」
「まさか! そんなつもりじゃ」
必死に答えると、神山くんの顔がフッとやわらいだ。
「あ、そ。じゃあ、やっぱオレの決めつけだったんだな」
「え?」
神山くんは、自分のおでこを撫でる。
「オレさ、学校に来るのが本当にいやだったんだ。事故のことを思い出して、パニックになるにちがいない。そんなかっこ悪いとこを、クラスのやつらに見られるぐらいなら、オーディションだって落ちればいいやって本音じゃ思ってた」
「そんな」
「それに、あんたがオレをウザがって避けるなら、シカトしてやろうって決めてた。でもさ。そうやって最初からいろんなもんを勝手に決めつけるのって、すげぇダサいなって気づいたんだ」
「……」
「それで今日、学校に来てみたんだ。そしたら、いままでビビってたのがバカみたいに、大したことなくて笑っちまったよ。あんたも、オレをきらってるわけじゃないみたいだし。考えるだけ、時間のムダだったわ」
「神山くん……」
「だからあんたもさ。最初から決めつけずに、ちゃんとぶつかれよ」
ドキッ。まるで心のなかを見透かされたみたい。
「なんであんたは、オレを避けたの?」
「……ごめんなさい。神山くんが凛ちゃんをかばうから、すこしムッとしちゃったの。ひどいことも言っちゃったから、合わせる顔がなくて」
「その凛とのケンカの理由だけどさ。オレにうそついてることない?」
ぎくっ!
「コンクールに選ばれなかったぐらいで、凛がそこまでするとは思えないんだよな」
ごくりとツバを飲み込む。神山くんは、真剣に私と向き合ってくれている。
それなら私だって、ちゃんと自分の気持ちを伝えなきゃ。
机の上に広げたスケッチブックを持って、ドキドキしながらページを広げた。
これは、コンクールに出品する予定だった、バのなかの神山くんを描いたラフスケッチだ。
「うわ。なにこれ、オレじゃん!? はずかし!」
「言わないで! 私のほうがはずかしいんだから!」
バクバクと早打つ心臓。きっと、私の顔は真っ赤だと思う。
「神山くんは友だちだから、コンクールのテーマにぴったりだと思っていたの。でも先生からは、描いているうちに私の気持ちが変わってきたんじゃないって言われて」
スケッチブックで顔をかくしながら、ありのままを話す。
「ふうん?」
「でも、凛ちゃんには言えなくて。本当は私も神山くんを好きになっちゃったのに、なんとも思ってないって、うそをついちゃったんだ。でも凛ちゃんからすれば、そう言いながら神山くんとは仲良くしてて。こんなうそつきな私のこと、きらいになって当然だよね」
おそるおそる顔をあげると、なぜか神山くんのほっぺたが赤くなっていた。
「……あんたいま、前半にものすごいこと言ったけど自覚ある?」
「えっ? ケンカの理由を言っただけだよ?」
あ、あれ? なんかヘンなこと言ったっけ?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます