第30話 傘の下
『終点、丸山駅前に到着です』
運転手さんのアナウンスと同時に、バスが停まって扉が開く。
乗客がいっせいに立ち上がるけど、みんな傘を持っているから、いつもより降りるまで時間がかかっているみたい。
神山くんは、さりげなく私より前に並ぶと、先にバスを降りていった。
「床、すべるから気をつけろよ」
神山くんは、あとから降りる私が濡れないように、傘をかたむけてくれる。
「大丈夫だよ、さすがにそんなドジじゃないって」
「どうだか」
神山くんはからかうように笑って、さりげなく私の手をとってくれた。
降りしきる雨のなか、じわっと伝わる神山くんのぬくもり。
傘の下でほほえむ神山くんは……まるで本物の王子さまみたい。
こんな気持ちになるのは、神山くんがかっこいいから?
ううん……。もしかして私、神山くんのことが……。
「じゃ、また明日な」
はっ! 私ったら、なにを考えてるの!
「風邪引くなよ?」
「ありがとう。神山くんもね」
神山くんは手をふって、商店街に消えていった。
そのうしろ姿を見送りながら、私も学校へ向けて歩き出す。
そのときだった。
ふと、誰かに見られているような気がして、あたりを見回した。
でも、道行く人たちは、みんな傘をさしていて、私のことなんか目もくれない。
気のせい、かな?
うん、きっとそうだよね。
それより、早く学校に行かないとずぶぬれになっちゃう!
私は小走りで、学校までの道を急いで走る。
――でも、そのときの私は気づかなかったんだ。
私たちのうしろに、傘をさした凛ちゃんがいたってこと。
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