第28話 ふたりの絵

 それから、あっという間に三週間が経ってしまった。


 今日は美術の授業があって、私は朝からわくわくしていた。

 凛ちゃんと一緒に、二人で校庭のすみっこに座って花壇をスケッチする。

 風景画は苦手だから、なかなか構図が決まらない。

 それにくらべて、凛ちゃんはサラサラと描き進めていってる。


「凛ちゃんって、風景を描くのが上手だよね」

「風景画は、最初にパースをきちんと決めることが大切なの。なにも考えずに描いたら、校舎がふにゃふにゃに見えちゃうわ」

「うっ!」

「ただ枚数を描いてるだけじゃ、上手になんてならないんだから」


 さすが凛ちゃん。画家を目指している人は、いろいろ考えながら絵を描いてるんだな。

 スケッチブックのページをぱらぱらとめくる。

 たくさん描きためたけど、たしかに私の絵はつたない感じがするかも。


「菜月さんのカラー絵って、だいぶ奇抜よね」


 凛ちゃんは色鉛筆で塗った私の絵をのぞきこむ。


「コンクールに応募するわけじゃないから、自由に塗ってるんだ」

「だけど、空を緑色で塗る人にはじめて会ったわ。もっと見せて?」


 スケッチブックを手渡すと、凛ちゃんは「へえ」とか「すごい」とか言いながら、興味しんしんにページをめくっていく。

 私が描く絵はちょっと変わってるって言われることが多いんだ。

 でも、どうしても人の顔を水色や、海を赤で塗りたくなる。

 それがおかしいってことはわかってる。


 だから前の学校ではいわゆる「フツーの絵」を描いていた。

 そのほうが、亜衣に追いつけるって思ってたから。

 でも、やっぱり好きな色をつかって、思ったままに描くのがいちばん楽しい。

 凛ちゃんは、ぜんぶのページを見たあと、


「すてきな絵ね」


 と感心してくれた。


「へんじゃない?」

「ぜんぜん! あたしは、こういう個性的な絵って大好きよ」

 じーんと、心の奥があったかくなっていく。やっぱり凛ちゃんは、本当にいい子。

「ありがとう、凛ちゃん」


 そのまま授業が終わるまで、私たちは絵を描きながらおしゃべりをして過ごした。

 教室に戻るころになって、


「そういえば、神山くんは、いまもバスに乗ってるの?」

「うん、オーディションに向けて頑張ってるみたい」

「……そう」


 凛ちゃんの横顔が、すこしさみしそうだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る