第22話 熱い想い

「そんな覚悟で芝居を続けるなら、もうやめちまえ!」


 天地さんの怒鳴り声が、レッスンスタジオにひびいた。

 窓ガラスがカタカタと揺れるぐらいの声量に、思わず体がすくんじゃう。

 顔を赤くして怒る天地さんの前には、神山くんと、数人の生徒さん。


 そう、これは『演技』。


 神山くんと生徒さんは新人役者、天地さんは映画監督という役をそれぞれ演じている。 

 どんなに天地さんから問い詰められても、一言だけしかしゃべってはいけないというルールのもと、レッスンがはじまったんだ。


 台本なんてない。

 役になりきって、アドリブで言葉を伝えなきゃいけない。

 それができてはじめて役者なんだと、レッスンが始まる前に天地さんが教えてくれた。

 でも……たとえ演技だとしても、あんなに怒った天地さんに言い返すなんて怖すぎるよ!


 神山くん以外の生徒さんは、天地さんに圧倒されて、動けないでいる。

 なかには涙を浮かべている人もいて、見ている私までもらい泣きしてしまいそう。

 でも、これが本物の演技なんだ……。


「なんとか言ってみろ!」


 天地さんの演技はヒートアップしていき、神山くんを強く突き飛ばした。

 よろめく神山くん。きっとすごく痛いに違いないのに、ぜんぜん表情を変えない。

 それどころか、天地さんをするどく睨みつける。


「なんだその目は! やめろって言ったのが聞こえなかったのか?」

「やめない」


 意志が強くて、凛とした声。

 たった一言なのに、その場にいた全員がはっと顔をあげて神山くんを見た。

 天地さんまで、たじろいだように口を閉ざす。


「すげえ迫力……」


 誰かが漏らしたつぶやきで張りつめていた糸が切れたのか、立っていた生徒さんたちは、全員その場に座りこんだ。

 顔を赤くして怒鳴っていた天地さんも、にこっとほほえんで、神山くんの頭を撫でた。


「キミは、やっぱり本物だね」


 神山くんは、照れくさそうにはにかむ。

 私が褒められているわけじゃないのに、胸がいっぱいになった。

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