第16話 テレビの中のヒーロー

 翌日、凛ちゃんはさっそく神山くんのDVDを貸してくれた。

 4枚組とあって、箱型のケースはどっしりしていてかなり大きい。

 ジャケットには、神山くんの顔が大きくうつっていた。


 こうして実物のDVDを手にすると、本当に役者さんだったんだって実感する。

 しかも、一緒にうつっているのは役者の『天地涼介』さん。


 テレビにうとい私でも知ってるぐらい、有名な役者さんだ。


 アイドルから役者になった人だから、ものすごいイケメンなんだ。

 たしか、引退したというニュースを見たような?


 ケースの裏を見ると、二年前に放映されていたドラマってことがわかる。

 ってことは、私たちが小学五年生のときのドラマってことだ。


 小学生で主演……。


 そんなにすごい人と、毎朝バスでお話をしてるなんて、なんだか信じられない。


 はやる気持ちがおさえられず、今日は部活をおやすみして家に帰ってきちゃった。

 玄関を開けると、制服を脱ぐのもじれったくてリビングまでダッシュ!


 いざ、テレビで再生開始!


 雰囲気のあるオープニングからはじまって、いきなり神山くんが登場した。


「わああ」


 二年前のドラマだから当然なんだけど、いつもの神山くんと印象が全然ちがう。

 今よりもおさなくて、くったくなく笑う姿がまるで別人みたい。

 舞台となっている星野中学校も、いまとはちょっとずつ変わっていて不思議な感じ。


 私はぜんぜん関係ないのに、なんだかにやにやしちゃう。

 クッションを抱きかかえながら、テレビを見つめる。

 ドラマは、学校にあらわれる悪い幽霊を退治するヒーローのお話。


 主演の神山くんは、幽霊相手に校内で激しいアクションをなんなくこなしている。

 狭い教室で、飛んできた机や椅子を上手にかわしたり、屋上からとなりの校舎に飛び移ったり。

 見慣れた校舎だからこそ、よけいにリアルでヒヤヒヤしちゃう。

 何度も「あぶない!」って目を閉じちゃうシーンばっかり。

 でも、テレビのなかの神山くんは余裕しゃくしゃくって感じで、幽霊をたおしていく。

 相棒役の天地さんも演技が上手で、二人の息はぴったり。


 こんなにベテランの役者さんと共演していても、神山くんはぜんぜん浮いてない。

 本当にこんなスーパーヒーローがいるんじゃないかって思うぐらい自然な演技。

 私はいつの間にか神山くんが演じていることも忘れて、ドラマに見入ってしまった。


 途中でお母さんが帰ってきて、「早く寝なさい」って怒られても、止めることができなかった。


 だけど、ドラマは七話という中途半端なところでとうとつに最終回をむかえた。

 バスのなかで聴かせてくれた、あのきれいな主題歌が流れたあと、画面はまっくらになる。


 そっか……打ち切りって言ってたもんね。

 テレビの液晶に、ぼうぜんとする私の顔がぼやけて見える。


 こんなに素敵なドラマのなかで、どうして神山くんは誰かをケガさせちゃったんだろう?


 いつか、教えてくれるかな?

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