第12話 気まずい

「神山くんは、どうして学校に来ないの?」

「オレの口からは言いたくない」

「でも心配してた人もいたよ? 学校へ来ないのに、バスでどこに通ってるのって」


 すると、神山くんはむっとしたように私をにらみつけた。


「言いたくないって言ってるだろ。詮索されるの、きらいなんだけど」

「あ。ごめんなさい」


 うう、神山くんがやさしいからって、ちょっと調子に乗りすぎちゃったかも。

 人には訊かれたくないことはあるよね。私だってそうだもん。

 ガタン、ガタンとバスの走行音だけが響く。

 神山くんはそっぽを向いて、いつの間にか片耳にイヤフォンをつけている。

 すごく気まずい……。なにか話題を変えなくちゃ。


「か、神山くん、いつもイヤフォンでなにを聴いてるの? 好きな歌手とかいる?」

「詮索されるのはきらいだって言ったよな?」

「ごめんなさい」


 撃沈。私のバカ! 墓穴を掘ってどうするの!

 神山くんって謎が多すぎて、むずかしすぎる。

 もうだまっていよう。私はうつむいて、スカートの裾をにぎりこむ。

 すると、となりでふっと笑う声が聞こえた。


「悪かったよ。いまのは冗談だって」


 神山くんはからかうように言って、カバンから真新しいイヤフォンを手渡してきた。


「一応、新品のやつ。片方、つけてみ」

「うん?」


 私は右耳、神山くんは左耳に、それぞれイヤフォンを挿した。

 プラグは神山くんのスマホにつながっているみたい。

 でも、コードが短いせいで、体をくっつけ合うようにしないと外れてしまいそう。

 だけどこれ以上近づいたら肩がぶつかっちゃうし。


「おい、もっと近づけよ」

「は、はあい」


 すこし肩が触れただけなのに、カァッと自分の頬が熱くなるのを感じる。

 こんな近くにかっこいい顔があったら、誰だって意識しちゃうよね?


「おい、聴こえてるか?」


 って、そうだ。ちゃんと聴かないと。自分の心を落ち着けて、耳を澄ました。

 きれいな音楽だな。歌っている女の人の声が、耳を伝って体のすみずみまでしみこんでいく。

 バスの走行音すら……ううん。バスに乗っていることも忘れてしまいそうなくらい、聞き入ってしまう。


「すごくすてきな曲……」

「だろ?」


 神山くんは目をかがやかせながら、ずいっと私に近づいた。


「オレが主演やってたドラマの主題歌なんだ」

「そうなの!?」

「ああ。この曲を聴くと、世界一の役者になるって決めた日を思い出すんだ。心が折れそうになったら、これ聴いて自分をはげましてんだよ」


 世界一の役者……聞いているだけで、私までわくわくしてくる!


「神山くんはすごいね。私と同い年なのに、自分の夢がはっきり決まってるなんて」

「サンキュ。そういうあんたは、夢とかないの?」


 一瞬、言葉につまる。


「な、ないよ」

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