第11話 バスのなか
翌朝。私はバスに乗り込むなり、神山くんのとなりに座った。
不思議そうな顔をする神山くんへ、美術部に入部したことを伝えると、
「へえ。意外とやる気あったんじゃん」
そう言って、うれしそうにほほえんでくれた。
「それで、どんな絵にするんだ?」
「あっ。コンクールに出品するわけじゃないよ」
「ん? じゃあ、なんのために入部したんだよ?」
うっ。たしかに誰でもそう思うよね。
私は、もじもじと両手の指をからめる。
「絵のそばに、いたかったから……かな」
ちらっと神山くんを見たけど、帽子の下からのぞく表情はクールなまま。
「ふうん。ま、好きなことから離れるなんて、そう簡単にはできないもんな」
好きなこと……。
神山くんは芸能界から距離をおいたのに、もう一度オーディションを受けようとしてるんだよね。それって、やっぱり演技が好きだから?
訊いてみたい。だけど、友だちでもない私がいきなり尋ねるなんて無神経かな。
そんなことをぐるぐる頭のなかで考えていると、神山くんがとつぜん手を伸ばしてきた。
「あんたさ……」
「わっ、なに!?」
顔が近くて、思わずドキッとしちゃう。
だけど神山くんは動揺する私をからかうように、ほっぺたを軽くつねってきた。
「にゃひ、ひゅるの?(なに、するの?)」
「なんか、言いたそうな顔してたから」
「ひゃんで、わひゃったの?(なんで、わかったの?)」
神山くんは私から手を離して、自分の目を指さす。
「役者志望の観察眼、なめないでくれる?」
役者志望?
「それって、うそだよね? 神山くんって、役者さんだったんでしょ?」
今まで笑顔だった神山くんの顔色が、サッと変わる。
「どこでそれを?」
一気に神山くんの声が低くなって、背筋がぞうっとした。
「……美術部のみんなから」
「ほかに、なんか聞いた?」
共演者をケガさせた、なんてとても言える雰囲気じゃない。
ふるふると首を横にふると、神山くんはほっとしたように息をつく。
「そっか。ま、同じ学校だし、いずれバレるよな」
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