第10話 もやもや

 五時四十五分。『丸山駅前』停留所。

 プシューと音を立てて、バスの扉がひらく。


 バスの中はガラガラだ。


 朝とは反対方向へ走るバスに揺られて一時間。

 バスから降りて山道を少し歩くと、すぐに私の家が見えてくる。


 ちょっと古いけど、二階建ての大きな木造家屋。

 立派な門に、広いお庭。お部屋はなんと十もある。

 といっても、私はお母さんと二人暮らしだから、使っていない部屋のほうが多いんだけど。


「ただいまー」


 家のなかはまっくら。お母さんはまだ仕事で帰ってないみたい。

 部屋着になる前に和室にいって、お父さんの仏壇に手を合わせた。

 写真の中で笑っているお父さんは、四年前に病気で死んでしまったんだ。


 私が転校したって知ったら、きっとお父さんはすごくびっくりするだろうな。

 リビングに戻ると、作り置きの夕食がテーブルの上に置いてあった。

 本当はお母さんと一緒に食べたい。

 でも、お母さんは私を転校させるために、仕事も変えてこの家を買ってくれたんだ。


 だから、さみしいなんて言っちゃいけないよね。これくらい、我慢しなくちゃ。

 部屋着になって、ソファに寝転びながらテレビをつけた。


 今まではヒマさえあれば絵を描いていたけど、最近はテレビを見ることぐらいしかやることがない。


 ぼうっとテレビを見ていると、新ドラマの出演者インタビューが映し出される。

 たくさんのカメラの前で、笑顔でハキハキとしゃべる役者さんたち。


 私が大人になったとしても、きっとこんな風に堂々としゃべれないだろうな。

 神山くんの顔が、ふっと浮かぶ。


 元子役だったってことは、こうやってテレビにも出てたのかな?


 神山くんがインタビューを受けているところ、ちょっと見てみたかったかも。


 ――『神山は共演してたヤツをケガさせたの』

 ……先輩が言っていたことって、本当なのかな?

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