第7話 コンクール
美術準備室は美術室のとなりにあって、人が三人も入ればぎゅうぎゅうになってしまいそうなほど狭かった。
戸を開けると、ニスや絵の具の匂いが一気にあふれ出てくる。
室内には描きかけのキャンバスやスケッチブックが山のように積み重なっていて、イーゼルもたくさん立て掛けてあった。
足の踏み場もないくらい乱雑だけど、画材を見ているだけで胸がはずんじゃう。
「ここにあるものは、部員なら誰でも使って大丈夫よ。もし、コンクールに出品するなら、キャンバスも自由にどうぞ」
「コンクール……」
「そうそう。直近のだと、あれね」
凛ちゃんが壁を指さす。そこには、『第四十三回 全国中学生美術コンクール』のチラシ。
神山くんに挑戦してみたらと言われたコンクールだ。
「美術部のみんなは出品するの?」
「もちろん。でも、全員が出品できるわけじゃないのよ」
「どうして?」
「日向先生はああ見えて厳しくて。落選しそうな作品は推薦してくれないの。辻先輩以外は、ほとんど校内審査で落ちてるんだから」
ええ~~! 日向先生って、もしかして美術の鬼だったりする!?
「でも、あたしは絶対出品させてもらう。絵だけは、誰にも負けたくないから」
凛ちゃんの言葉は、すごくまっすぐで心に刺さる。
まるで、すこし前の自分みたい。
凛ちゃんは棚から描きかけの大きなキャンバスを引き出して両手で抱えた。
「菜月さんもコンクールに挑戦してみたくなったら、遠慮なく言ってね」
「うん」
でも、私がコンクールに出品するなんて日は、二度と来ないんだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます