第3話 演技の世界?

「え? もしかして、あなたも絵を描くの?」


 男の子の目がきらりとかがやく。


「オレは演技の練習をしてんの。役者になりたいから」

「役者!?」


 役者さんなんて、私にとっては別世界の人だ。

 いつもきらきらしていて、みんながあこがれる、すごい人たち。

 私と同い年ぐらいなのに、もうそんな世界を目指してるなんて。


「私とは大ちがい……」


 男の子は、目を細める。


「オレもさ、十月末に大きなオーディションがあるんだ。あんたも気が向いたら、一緒にがんばろうぜ」

「あ……」


 なんて答えたらいいのかわからない。

 でも、がっかりされたくなくて、だまったままチラシを受けとる。


「オレは神山慧。よろしく」

「こ、こちらこそ」


 かみやま、けいくん。

 あれ? どこかで聞きおぼえがあるような気がするけど、思いちがいかな?

 席に座り直してしばらく考えてみたけど、結局わからなかった。


 バスが駅前につく頃には、途中から乗り込んできた乗客で車内はぎゅうぎゅう詰め。

 大人たちに混じってバスから降りるだけで、ひと苦労だ。

 私のあとにつづいて、神山くんもバスから降車したのが見えた。


 友だちじゃないし、わざわざ声をかけるのはおかしいよね。


 神山くんは、私をふり返ることなく、すたすたと商店街へと消えていった。

 ……あっちに学校なんてあったかな?

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