第4話 凛ちゃん

 私が通っている星野中学校は、駅から十分ぐらい歩いた場所にある。

 校舎は外国のお城みたいなデザイン。敷地も、ものすごく広いんだ。


 わざわざ都内から、見学に来る人も多いみたい。


 そんな学校だから、写真集やドラマ、CMのロケ地としてもよく使われているって、転入するときに担任の先生から教えてもらった。


 転校初日は、いつか芸能人に会えるかもってちょっとだけ期待してた。

 ううん、それだけじゃない。


 ちがう学校に通えば、新しい友だちもできて、絵のことなんか忘れるぐらい楽しい毎日を送れるはずって思ってた。


 だけど二週間経ったいま、『1年1組』の教室で私はひとりぼっち。


 給食を食べ終えたクラスメイトたちは、友だちと楽しそうに話している。

 転入してから数日は、都会からの転校生ってことで、みんなが興味しんしんに話かけてきてくれた。


 でも、クラスのみんなは小学校からそのまま進級してきた子が大多数。

 すっかり仲良しグループが出来上がっていて、話に入っていけない。

 そんなわけで、今じゃすっかりクラスで浮いちゃってる。


 前の学校では、いつも亜衣と話していたから、休み時間がこんなに長く感じたことなんかなかったのに。

 早く次の授業、始まらないかな。


 机の上にノートと教科書を置いたまま、ぼーっと窓の外をながめる。

 すると、


「わあっ。それ凛ちゃんが描いたの?」


 教室のうしろのほうで、楽しそうな声が聞こえた。


「図書委員の人から頼まれたの。ここに貼ってもいいかな?」

「もちろん!」

「さすが、凛は絵が上手だね」


 気になってふり返ると、クラスメイトの白金凛ちゃんが、教室の掲示板にポスターを貼りつけているのが見えた。


『読書の秋』と書かれた文字の下に、本を読む男子学生と舞い落ちる紅葉。

 まるで写真みたいにリアルな絵。

 白金さんのまわりに、クラスメイトが集まっていく。

 クラスでも人気者の白金さんは、学校一の美人ってウワサ。


 猫のようにまんまるな奥二重の大きな目に、すらっとした細い体。

 腰のあたりまで伸ばした栗色の髪の毛を、いつもおしゃれな髪留めで結んでいる。

 勉強も運動もダントツで、上級生にもコクられたとか。

 そのうえ、あんなに上手な絵まで描けちゃうなんて、まさにパーフェクトって感じ。

 うずうず。

 絵が上手な子をみると、私だってって気持ちがわいてくる。

 ……もし、私が読書の秋っていうテーマで描くなら。


 鉛筆をにぎって、ノートへ頭に浮かんだイラストをらくがきしていく。

 だけど、とちゅうで亜衣の顔が浮かんで手を止める。

 なにやってるの、私ってば。

 描きかけた絵を、いそいで消しゴムでこする。


「あら、菜月さんも絵を描くの?」

「ひゃあ!?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る