第2話 バレた秘密

 空白のページを見ると、つい無意識に絵を描こうとしちゃってる。

 もう、私のバカ! 絵はやめるって決めたはずでしょ!

 ため息をつきながら、パラパラとノートをめくる。

 すると、ページにはさまっていたチラシに目がとまった。


 『第四十三回 全国中学生美術コンクール』。


 テーマは「友だち」。締め切りは、一ヶ月半後の十月三十一日。

 友だちという文字を見ると、胸の奥が針でさされたみたいに、ちくっとする。

 学校から配られたチラシだけど、なかなか捨てられなくて、こうして毎日ながめている。

 でも、いいかげん、捨てなきゃ。私にはもう必要ないんだから。

 思い切って、ぐしゃっと手でチラシをつぶす。

 そのとき、


 キキーッ!


「わっ!」


 とつぜん、バスが急ブレーキをかけた。

 私の手から、丸めたチラシがコロコロとうしろの座席に転がっていく。

 あわててふり返ると、あの男の子が気づいてひろいあげてくれていた。


「ごめんなさい。それ、私のなの」


 座ったまま声をかけると、彼はきょとんと私を見つめかえしてくる。

 くっきりした二重まぶたに長いまつ毛、ツンと尖った高い鼻。ふっくらした唇はつやつやだ。

 こんなに近くで向かい合ったのははじめてだけど、やっぱり、すごくかっこいい。


「また落とし物? 西野菜月サン」


 え? いま、名前を呼ばれた?


「どうして私の名前を知ってるの?」

「あんたが定期落としたときに覚えた。裏にフルネーム彫ってあっただろ?」

「わざわざ覚えててくれたの?」

「記憶力には自信があるんで」


 男の子は自分の頭をトントンと指でたたきながら、にこっと笑う。

 その笑みがステキで、思わずドキッとしちゃう。


「ところでこれ、大事なもんじゃねえの?」


 彼はつぶやきながら、コンクールのチラシを広げていく。


「あ……それはいいの。どうせ、出品するつもりはないから」

「じゃあ、なんで毎日ながめてたんだよ?」

「え?」

「いかにも未練タラタラって感じで、ずーっと見てたじゃん」

「どうしてそれを!?」

「うしろの席は一段高いから、見晴らしがいいんだ」


 まさか。


「もしかして、ずっと見てたの?」

「まあな」


 一気に体中がカーっと熱くなる。は、はずかしい!

 私のことなんて視界にも入ってないって思ってたのに!

 いつから? どこまで? 私、ヘンなことしてなかった?

 っていうか、なんで私のことなんか見てるの!?

 もんぜつする私にかまわず、男の子はチラシを差し出してきた。


「丸めないで、ちゃんと持って帰れよ」

「うっ。でも、どうせ絵はやめたから」

「毎日ノートを開いて、スケッチしようとしてんのに?」


 そんなところまで知ってるの!?


「興味あるなら、やってみりゃいいじゃん」

「そんな簡単なことじゃないの!」


 思わず強い言葉になってしまって、あわてて口をおさえる。


「あ、ごめんなさい」

「……いや、オレもほぼ初対面なのに、おせっかいだった」


 男の子はふいっと視線をそらす。

 せっかく声をかけてくれたのに、感じわるくしちゃった。


「……オレは単純に、あんたにも夢があんのかなって思ったから話しかけただけ」

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