38『乱戦乱闘』

「あ、身体強化、今いくつだ?」


 ゴンッ、と尻に刺したマイナスドライバーをバールで殴り、口からそのマイナスドライバーがこんにちはと顔を出したのを見て、秋水は深夜のジムでの確認作業をするのをすっかり忘れていたことを思い出した。

 勢いのままどさりと地面を転がる角ウサギへ向かって、持っていたバールを思いっきり投げつけ、反対の手で腰ベルトからハンマーを引き抜く。

 想像よりも勢いがついたバールは、角ウサギの尻にぶっ刺さった。

 狙っていない。偶然である。

 外れてもいいや、くらいで投擲したら、まさかマイナスドライバーを突き刺した臀部へ、当たるどころか刺さるとは思ってなかった。

 シュールな光景を晒した角ウサギは、げぼっ、と口から、ついでに尻から、光の粒子を噴き出した。

 ハンマーで口から突き出たマイナスドライバーを叩こうかと思ったら、ついでで投げたバールがトドメになってしまうとは。


「うーん、また強くなってる、っぽいよな」


 腰ベルトにハンマーを戻し、両手のライディンググローブを脱ぎながら秋水は首を傾げた。

 バールの投擲方法が良かった、のかもしれないが、それでも随分な勢いで飛んでいったのには秋水の方が驚いた。

 角ウサギの角突きタックルと比べたら、それは遅いかもしれないが、それでも野球の球でも投げたかのような速度が出たのである。


「これは投げる武器もアリになってくるな」


 それなりの質量がある手頃な投擲武器は何だろうか考えながら、死亡演出の始まっている角ウサギに駆け寄って、秋水は両素手で角ウサギの口と臀部から噴き出す光の粒子へと手をかざす。

 うーん、イヤな感じ。

 相変わらずゾワゾワするようなしないような、妙な悪寒を覚えながら謎の光を取り込んでいく。

 この良く分からない光を取り込んで、秋水の中にある 『妙な力』 を増やすことによって、身体強化の強化率が引き上がる。

 今日のジムに行ったとき、その強化率がどれくらいになったのか確かめるのを忘れてしまっていた。


「んー、3%くらいから9%くらいになってたってことは、順当に行けば15%くらいか? いやでも、10%で頭打ちになる可能性だってあるわけだし……」


 ブツブツ呟きながら、光の粒子を取り込む感覚から秋水は目を背ける。

 身体強化の強化率は上限がどれくらいなのかが分からないし、どれくらいのペースで成長できるかも分からないので、日々のチェックは大事だろう。

 筋トレの記録と同じだ。これからは忘れないようにしよう。

 そう心に決めてから、ゆっくりと消え始める角ウサギを秋水はバイザー越しに見送った。

 カラン、と岩肌の地面にマイナスドライバーが転がり、白銀のアンクレットもついでのように転がった。

 臨時収入である。


「こいつの出現率も計算した方が良いのかなぁ」


 落ちたマイナスドライバーとアンクレットを拾い上げながら、秋水は独り言ちた。

 白銀のアンクレットは大事な収入源になる。

 なるのだが、このドロップアイテム、どれくらいの割合で出るのかは記録を取っていない。そして、どうしたら出現率を上げられるのかも試行錯誤をしていない。


「……ま、いいや」


 マイナスドライバーを腰ベルトに差し込んで、早々に諦める。

 身体強化はダンジョンアタックの際、角ウサギを殺すための重要な要素なので記録を付けるモチベーションも上がるというものだが、ドロップアイテムの方はぶっちゃけあまり興味がない。

 出たらラッキー、くらいで良いだろう。大事な収入源ではあるが、あくまでドロップアイテムはオマケ要素でしかないのだ。

 ダンジョンアタックの本命は、戦うことだ。

 ひりつく感じが堪らない。

 確かに、角ウサギ1体相手では、命のやりとりをしている感はすっかり薄くなった。


 だが、今日は違う。


 もう既に、1体出現の、最後の部屋だ。


 本日のメインディッシュは、ここからなのだ。


 殺し合いの場が目の前にあることに、皮膚がひりつくような感じを覚え、秋水の顔には思わず好戦的な笑みが滲み出る。

 一昨日だ。

 3体相手に大立ち回りをしたのは、一昨日のことである。

 まだ2日なのか。

 もう2日なのか。

 本当なら、もう少し身体強化の強化率を引き上げてから向かうのが正しいのだろう。

 まあ、ダンジョンアタックをしている時点で、正しいも何もないわけだが。


「さて、テンション上がってくるぜ」


 ライディンググローブを再び装着して、秋水は入り口側の通路からリュックサックを取ってくる。

 怪我はしていない。

 体力は十分だ。

 ポーションを飲む必要はない。

 今すぐにでも行ける、と思うのは興奮しすぎなのかもしれない。

 秋水は大きく深呼吸をしてから、よし、と気合いを入れ直す。

 この先には、角ウサギが3体だ。

 3体を相手取る。そして殺す。

 だが、ただ殺すだけでは、ない。


 3体ぶち殺がす、だけでは駄目だ。


 今日の目標は、3体の角ウサギをぶっ殺して、次に進むことである。











 1体。

 2体。

 3体。

 入り口から数えれば、やはり角ウサギは3体体制。減ってたらどうしようかと思ったが、ひとまずは安心だ。

 増えていたら? 喜んだだろうさ。

 ここから部屋に踏み込めば、角ウサギが襲いかかってくるだろう。

 だったら、ここから投擲武器をちまちま投げ込んでみたらどうだろうか。

 そんな考えが脳裏に泡のように浮かんできたが、所詮は泡沫、浮かんで消えた。秋水がしたいのは、そうじゃないのだ。

 その内一度、試してみるのはアリかもな、と舌舐めずりをして。




「ゴーッ、ゴゴーッ!」




 気合いとともに、歓迎パーティーの会場に飛び込んだ。

 バールは2本とも腰ベルトに差している。右手は無手、左手にはマイナスドライバー。初動はこれだと決めていた。

 軍隊の突入みたいな掛け声を出そうと思ったら、噛んでしまって秘密な戦隊みたいな感じになったのがいまいち絞まらないが、これはこれで逆に肩の力が抜けて良い感じだ。

 意図的に軽口を言った方が、緊張しなくて良いかもしれない。


「お出迎えは……息合ってねぇな君ら!?」


 部屋に足を踏み入れると、角ウサギはすぐに反応する。

 力を溜めるようにそれぞれの身体が沈み込むのを確認するが、そのそれぞれのタイミングがバラバラだ。

 お得意の角突きタックルは、一斉攻撃ではなく波状攻撃のご様子。

 左手に構えていたマイナスドライバーを、即座にくるりと逆手に持ち替えるのと、1体目が跳び掛かってくるのは似たようなタイミングだった。


「にっ!」


 見慣れた弾丸のような角突きタックル。

 躱すだけなら余裕だ。

 身体強化で補強された動体視力を持てば、それは余裕を持って躱すことができる。

 問題はその次のすぐに襲いかかってくることで、1体目だけを注視していてはぶっ刺されてしまう。

 可能な限り最小限の動きで、右にステップ。

 が、身体強化が強くなっているせいなのか、思ったよりも右へ跳んでしまった。


「おっと」


 幸か不幸か、大きく右に跳んでしまったことで、2体目の角突きタックルもついでに回避してしまう。

 右手をフリーにしていたのは、2体目のを受け流すつもりでいたのだが、無駄になってしまった。

 身体強化の強化率、ちゃんと記録を取っておいた方が良いな、マジで。

 心の中で舌打ちをし、それでも顔には凶悪なる笑みを滲ませながら、腰ベルトに差してある短い方のバールへと右手を伸ばす。

 3体目が遅れて突っ込んできたのは、バールを手にするよりも早かった。

 速かった、が、遅かった。

 しっかりとタイミングを見極めて、体を捻るようにして更に右へと躱す。


「ほいっと!」


 そして、すれ違いざまに逆手に持ったマイナスドライバーを角ウサギの土手っ腹に、ずぶり。

 ライディンググローブ越しに、取っ手から変な感触が返ってくるが、それは無視だ。

 すらりと小バールを右手で引き抜き、マイナスドライバーが刺さった角ウサギが地面を勢い良く転がる間に、左手で長い方のバールを引き抜く。

 バールの二刀流。

 刀ではないか。


「まずは1体、串に刺さって肉、団子っ!」


 左手で抜いた大バールの、短い方を逆手に持ってトンファーのように構えつつ、軽口と共に右手で持った小バールを振り抜いた。

 ごっ、と硬い手応え。

 最初に突っ込んできた角ウサギが、もう角突きタックルを切り返してきたのを、タイミング良くカウンターでぶん殴ったのだ。

 着地が良かったのだろうか、それとも初撃は最初から避けられる前提で力を抜いて突っ込んできたのだろうか、はたまた壁を使って三角跳びでも決めてきたのだろうか、着地から次の攻撃までのスパンが明らかに短い。

 想定外、ではない。

 角突きタックルを躱した場合、次の角突きタックルまでどれくらい必要なのかは、もうすでに観察済みなのだ。再攻撃までの時間は短かったが、想定内の時間である。

 機械的に殺し回っていただけでは、たぶん再攻撃までの時間を計ることなんてしてなかっただろう。

 やはり作業的に戦っては駄目だな。

 殴り落とした角ウサギから、次に突っ込んで来るであろう角ウサギへと視線を移動させながら、秋水の笑みが深まった。


「んで悪いが、こっからは殴り合い、だなっ!」


 2体目の角ウサギが突っ込んでくる。

 それに合わせて秋水は一歩踏み込む。

 タイミングはドンピシャ。

 踏み込んだ足で叩き落とした角ウサギを踏みつけ、上体を右に反らして迫り来る角を避け。


 トンファーの如くバールを握り込んだ左の拳で、角ウサギの顔面へ真っ正面から殴る。


 喧嘩慣れなどしていないし、格闘技にも明るくないが、こんな感じだよな、という殴り方。

 見る人が見れば、雑な殴り方をして、と言うだろう。背中の筋肉は飾りかお前、と言うだろう。

 それでも、秋水からすれば、イメージ通りの殴り方。

 腕と肩と胸の力を使った、渾身の一撃。

 柔らかな毛の感触など微々たるもので、ライディンググローブ越しに返ってきたのは、なんとも硬い感触である。プロテクターの感触かもしれない。

 ごぼっ、と殴られた角ウサギの顔面から光の粒子が漏れた。


「良い感じっ! 今度ケーブルマシンでパンチングの筋トレしようかなって串に刺さってろお前はっ!!」


 想像以上に良い感じに拳が入ったことに喜ぶのも束の間、腹にマイナスドライバーが刺さっている角ウサギが続けて突っ込んでくる。

 ついでに足で踏みつけた角ウサギも暴れる。

 暴れる角ウサギのせいで若干バランスを崩しながらも、秋水は後ろに飛び退いて、その瞬間に、しまった、と自信の失態を悟った。

 突進してくる角ウサギと、同じ方向に飛び退いてしまった。

 だが慌てる必要は、ない。


「月夜肉っ!」


 咄嗟に兎肉の別名を叫びつつ右手を強引に振り抜いて、小バールで角の側面を殴り、強引に狙われていた胸から角を横へと逸らす。

 完全なる力業である。

 それに追加して体を無理矢理捻り、角ウサギの脅威をギリギリで躱した。

 紙一重だ。

 あっぶねぇ。身体強化がなければ普通に突き刺さってた。

 慌てる必要はないが、でも焦ってしまうのが人間である。


「……っと!?」


 バックステップからの着地、ミス。

 失態を即座にカバーできたのは良かったが、その代償なのだろうか、元々バランスを欠いた状態で後ろに飛び退いたせいもあるのだが、着地した右足が僅かに滑って秋水の体勢が崩れる。

 滑らかな床じゃなくて良かった。若干でこぼこしている岩肌の地面のおかげで滑った足が引っかかり、体勢の崩れは僅かで済んでいる。完全に足が滑って転ぶとかいう致命的なミスにはならなかったが、それでも隙は隙である。


「いや分かる! 俺だったら見逃さねぇ!」


 踏みつけられていた角ウサギが、よくも足蹴にしてくれたなテメェ、と言わんばかりに跳び掛かってくる。お前は先に蹴り転がしておくべきだった。

 そしてその後方では、顔面を殴られて光の粒子を垂れ零している角ウサギが角突きタックルの準備を終えているのが見える。おかわりの準備はよろしいようで。

 更にマズいのは、軌道を逸らした角ウサギが後方に跳んで行き、秋水の視界から外れている。

 馬鹿の1つ覚えのような角突きタックルは、裏を返せば磨き上げられたオンリーワンだ。一撃でも直撃すれば致命傷で、そこから寄って集ってブスブスと刺されて終了である。

 身体強化で補強された動体視力を持って、こちらへと突っ込んでくる角ウサギを見据える。

 体勢は悪い。

 踏ん張りきれないだろう。

 直撃は避けなくてはならない。

 視界の外に、もう1体いる。




 ああ、たまらねぇ。




 狙ってくるのは胸。心臓。

 補強された動体視力をもってすれば、必殺突きのその軌道もよく見える。

 見えてさえいれば、タイミングは十分とれる。

 ピンポイントで、狙える。


 長い柄を前に突き出すように左手の大バールをぐるんと回し、その先端を、突っ込んできた角の先端に、合わせて。


 ギィィィンッ、と甲高い金属の悲鳴が鳴り響く。

 バールの先端が、角の先端を、ピンポイントで捉えることができた。

 できたよオイ。

 大バールの方が角より長いので、角の先端からズレたところでカウンターがとれるだろうと思ったが、大成功である。

 成功したが、甲高い音に相応しいだけの反動。

 踏ん張りきれないのを、筋力で無理矢理支える。

 右足が滑ったのがどうした。

 左足で支える。片足で支えるのは、ブルガリアンスクワットやランジをしているのと同じだ、たぶん。

 崩れた体勢でも、身体強化による補強と、そして地道に鍛えてきた筋力に物を言わせて無理矢理踏ん張る。


 そして、角ウサギを、弾いた。


 真後ろに弾いた。


 首を変な方向に曲げながら、弾かれて、その後ろから襲いかかってきた同志に、貫かれた。


「前も見たなぁっ」


 角ウサギをカウンターで弾いた衝撃で、持っていた大バールを同じく弾き飛ばされながらも、秋水は笑う。

 無理矢理踏ん張った左足は大丈夫そうだが、バール越しとは言えども真っ正面から角突きタックルをカウンターで受けることになった左腕の手首が悲鳴を上げている。

 肩とか肘とかではなく、手首か。詰めが甘かったと言うべきか、手首で済んだと喜ぶべきか。

 いや、手首の悲鳴すらファンファーレだ。




 これだよ。この感覚。




 カウンターで弾いた角ウサギを、次に襲いかかって来る角突きタックルの射線上に上手く置き、ものの見事に同士討ちを誘発できた。

 やはり、同士討ち作戦は使える。

 獰猛な笑みを浮かべながら秋水は右足の崩れをすぐに立て直し、後ろに回り込ませてしまった角ウサギの方へと顔向ける。

 紙一重で避けられて着地を失敗したのか、こちらも体勢を崩していたのだろう、その角ウサギはようやく秋水へと狙いを定めたくらいである。

 身体は沈み込んでいない。

 角突きタックルの準備動作に入っていない。

 そして、その後ろに、弾き飛ばされた大バールががらんと転がり。


「うっしゃぁ!」


 即座に地面を蹴った。

 体勢は低く取り、右手に持った小バールを投げ捨てる。

 突っ込んできた秋水を迎撃しようと、角ウサギの身体が僅かに沈み込んだ。

 遅い。

 角突きタックルが襲いかかるよりも、秋水が襲いかかる方が早い。

 そう判断した、が。


「っ!?」


 いいや、角突きタックルの方が早かった。

 ああ、なるほど。

 完全に体を沈み込ませることはせず、中途半端な溜めで、中途半端な角突きタックルを仕掛けてきた。

 なるほど、なるほどな。

 十全なる威力より、出出しの速さを取ったのか。

 なるほど。

 捕食者のような笑みが深まる。


「だから……なんだワレェッ!!」


 確実に攻撃ができるように初動の速さを重視した、それは良い判断なのかもしれない。

 だが、十分に溜めをつくった全力の角突きタックルに対応し続けてきた秋水からすれば、タックルの速度そのものが、遅い。

 変速は確かに驚きだが、威力がそもそも足りない角突きタックルを恐れる必要など何処にもないのだ。

 馬鹿の1つ覚えは、裏を返せば磨き上げられたオンリーワンだ。

 そのオンリーワンを捨てた時点で、終わりだ。


 至近距離で突っ込んできた角を、右手で掴み取り、岩肌の地面に叩きつけた。




 痺れる。高鳴る。ゾクゾクする。




「こちらと全力のをなぁっ! 両手とは言っても、身体強化なしの時点で掴み止めてんだよなぁっ!!」


 気合いの叫びと共に、叩きつけた角ウサギのその角から手を離さず、落ちた大バールのところまで一気に引き摺る。

 それと共に左手で腰ベルトからハンマーを引き抜いて、取り零した。


「ちっ! まあ良し!」


 左の手首を痛めたせいで碌でもない凡ミスをかましたが、秋水は舌打ち1つで切り替える。

 引き摺った角ウサギを落ちている大バールの近くで投げるように転がす。

 ちらっと同士討ちをさせた2体へと目をやると、仲間の角突きタックルをモロに受けた角ウサギが光の粒子を顔面から噴き出している。死亡演出だ。ああ、そういやカウンターパンチぶちかました奴だったな。

 始末した1体目を見ながら即座に大バールを拾い上げ、振り上げる。

 視線を戻せば、地面を引き摺られて転がされ、もたもたと起き上がろうとかしている角ウサギの腹には、初撃でぶっ刺したマイナスドライバー。


「そんでお前は、死んで良しっ!!」


 振り上げたバールを、マイナスドライバー目掛けて一気に振り下ろす。

 手応え、あり。

 マイナスドライバーの持ち手が、砕ける。

 ああ、散々叩いて使っていたから、限界が来てしまったか。

 持ち手が粉砕されながらも、マイナスドライバーの本体は角ウサギの土手っ腹に深々と刺さる。

 そして、返すバールの短い柄の方を角ウサギの首に引っかけて。


 強引に持ち上げ、1回転。


 地面に、叩きつける。


 ぶしゃっ、とマイナスドライバーが刺さった腹部から勢い良く光の粒子が噴出する。

 2体目。

 頭の中でカウントを取る秋水は、すぐに残りの角ウサギへと振り返る。


「はぁ、はぁ……いや、これも前に見たな、はぁ、ドジっ子ちゃんよ」


 知らず知らずの内に上がっていた息を整えながら、秋水はゆっくりと残りの角ウサギに向かって歩き出す。

 仲間に同士討ちを喰らわせた下手人は、角が抜けなくて藻掻いている最中という間抜けな姿。

 そう言えば、前回も最後はこんな勝ち方だったなと思いつつ、にやぁ、と秋水は笑う。

 いやもう、この部屋に入ってから笑いっぱなしである。

 笑顔満点にっこにこだ。

 そんな悪人の極上スマイルを包み隠さず浮かべつつ、秋水は歩きながら大バールを振り上げた。


 目の前には、もう、角ウサギの姿。




 ああ、最高だ。




 1体相手でも全力でぶっ殺す。

 それはそれで、確かに楽しい。面白い。

 だが、やはり、ひりつく感覚は、ゾクゾクする感覚は、3体相手の方が、する。

 楽しいなぁ。

 面白いなぁ。

 ああ。




 さいこう、だ。




 ぐしゃりと、生々しい音と手応えに、秋水はいたくご満悦であった。




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