36『まともなバイト店員とまともじゃないバイト店員』

「し、失礼しましたっ!」


 女性店員に向かって、酔っているのに顔面蒼白の酔っ払いは、深々と頭を下げた後に缶ビールを抱えて逃げるようにしてコンビニから出て行った。炭酸を走って持って行ったら駄目なんじゃなかろうか。

 軽く威圧してすぐ、酔っ払いは同じ台詞を秋水に対して口走っていたが、秋水はそんな謝罪を受け入れることもなく、肩をがっしりと掴んだまま笑顔で


「謝る相手は、私ですかね?」


 と注意しただけである。脅してなどいない。

 謝られた小柄な女性店員は、ぽかんと口を開けたまま酔っ払いを見送って、数秒固まってから困ったように秋水を見上げた。

 そんな目で見られても。

 小さく手を振って酔っ払いをお見送りした後、秋水は何事もなかったかのようにレジカウンターにシャープペンシルをすっ、と差し出した。

 酔っ払った勢いで秋水にまで暴力的な意味で絡んで来ようとするならば、腕力に物を言わせ、酔っ払いを担いで強制退店させようと思っていたのだが、話し合いで済んで良かった。

 酔っ払いだのナンパだのの対処に、悲しいことに慣れている秋水としては、今回はかなり穏便に済んだケースである。体格が良くなり始めてから、見た目だけは良い鎬の虫除けとして、良いように使われるという苦い記憶があるのだ。


「あ、ありがとう、ございました……」


「いえ」


 しばらくしてから再起動した女性店員が、ぺこりと頭を下げて感謝の言葉を口にするも、助かってほっとした、と言うよりも、困惑の方が強い様子である。

 まあ、別に助けるようなつもりで酔っ払いを追い払ったわけではない。

 秋水は短く言葉を返し、支払用にスマホを取り出した。


「あ、えっと、いつもの電子マネーでよろしいですか?」


 スマホを取り出したのを見て、女性店員は慌ててレジに置かれたシャープペンシルを手に取ってから秋水へと尋ねる。

 おや? と秋水は意外そうに目を見開く。

 支払い方法を覚えているのか。別に常連というわけでもないのに。

 3回目でしかないのに良く覚えているな、と感心しながら、はい、とこれに関しても秋水は短く答える。

 外見のインパクトがデカいから覚えているだけである。


「……あ、あのぉ」


 軽快な電子音が支払いの終わりを告げた頃合いを見計らうかのように、女性店員が再びびくびくしながら声を掛けてきた。

 受け取ったシャープペンシルと、支払い終わったスマホをポケットに突っ込みながら、どうしたのかと秋水は女性店員を見下ろす。


「えっと……あの」


「はい」


「あ、ぅ……」


 しかし、声を掛けられたは良いものの、続く言葉が出て来ない。

 気の弱そうな女性である。見下ろす、という状態なのもどうかと思うが、カウンター越しに視線を合わすように屈むのもおかしな感じになってしまう。

 しかし、まじまじ見れば、本当に背が低いなこの人。

 大柄な秋水からすれば、女性は一律背が低い、という印象があるが、この女性店員はひときわ小さい気がする。

 リサイクルショップの店長である栗形 祈織も、目測で140台と小柄だが、こちらの女性店員の方がもう少し小さく見える。小動物みたいな印象でそう思えるだけだろうか。

 その背丈のせいか、だいぶ幼く見える女性店員を見て、さっきの酔っ払いはもしかしてロリコ……と秋水が勝手に戦慄していると、ようやく意を決したのか、女性店員が口を開いた。




「ど、どうして私の名字、知って、るんです……か?」




 僅かに震えながら、困惑、と言うよりは若干の恐怖を滲ませながら、そんなことを聞いてきた。

 思わず秋水は呆気に取られ、黙ってしまう。

 どうして、と言われても。

 困惑するのは秋水の方だ。

 この人は何を言っているのだろうかと思いつつ、こつこつ、と秋水は左胸を指で叩いて見せた。


「え……?」


 その秋水の仕草を見てから、女性店員は自分の胸元へと顔を向けた。

 え、ではないだろう。

 名字を知っているも何も、名札してるやないか、渡巻さんとやら。


 その名札に気がついたのだろう、一拍遅れてから、ぼっ、と火がついたように渡巻さんの顔が真っ赤に染まる。


「しっ、失礼しましたっ!」


 顔を染め上げた直後、がばりと渡巻さんが頭を下げてきた。

 さっきの酔っ払いと同じ謝り方である。

 それに遅れて、秋水もようやく納得が出来た。

 なるほど、そりゃ怖いわ。

 任侠映画の登場人物みたいな奴が、赤の他人である自分の名前を知ってたら、それはビビって当然である。

 すわストーカーかっ!? と通報されても不思議ではないご時世だ。何も考えずに呼んでしまったが、これは不快な思いをさせてしまったか。


「うわ、何やってるの私、恥ずかし……」


 名札の存在を完全に失念していた渡巻さんは、頭を下げたまま恥ずかしさのあまり両手で顔を塞いでしまう。

 不快な思いをさせた上に、恥まで掻かせてしまったようだ。

 酔っ払いウゼぇ、程度の考えで追い払いに入ったが、渡巻さんからすれば踏んだり蹴ったりな状況に陥らせてしまっただけではないか。


「いきなり呼んでしまって申し訳ありません。あの類いの方は、知り合いかのように割って入った方が効果的なので、つい」


「あっ、あ、いえっ! 謝るのは私の方です! ごめんなさい! ありがとうございましたっ!」


「いえ、大変でしたね」


「本当に助かりました! ありがとうございますっ!」


 こちらも謝罪を口にすれば、真っ赤な顔をがばっと上げ、渡巻さんはぺこぺこと連続で頭を下げてくる。

 酔っ払いには絡まれて、秋水からは辱めを受けて、困った客を相手に大変な仕事である。困った客の中に秋水自身を勘定に入れながら、思わず同情してしまった。

 ただでさえ、コンビニは利用できるサービスが幅広い分、働いている方の業務は大変だ。

 そこに迷惑な客の相手もしなくてはいけないのは、大変なことである。

 まして1週間で3回もヤクザみたいな筋肉ダルマが来店してくるのだ。普通に怖い職場じゃないか。


 そう言えば、この人、新人だよな?


 ふと、それを思い出す。

 思い出すと言うか、研修中のプレートがまだ胸についている。

 研修中の新人が、1人でこんなヤクザの寄りつくコンビニで働いている。

 エグくない?

 人手不足だからって、エグくない?


「渡巻さん」


 未だにぶんぶんと頭を下げる渡巻さんに、秋水は優しく声を掛けた。

 優しく、と言うより、同情してしまって哀れむような声になってしまっただけなのだが。

 下げた頭をぴたっと止め、渡巻さんはそろりと窺うように赤い顔を上げる。

 赤面で若干涙目の女性の上目遣いとはなかなか可愛いものではあるが、その顔の赤みの原因は秋水の辱めなので、むしろテンションは萎える。


「あのような客もいるでしょう、働いて嫌な思いもするでしょう。私は端から安易な応援しか出来ませんし、する資格もないでしょう」


 少しトーンダウンさせながらも、それでも落ち着いた声色で秋水は前置きを入れる。

 資格も何も働いたことがない中学生のガキが何を言うのかという話ではあるが。

 こんな新人独りに店を任せるようなコンビニではあるが。

 酔っ払いが来店してくるようなコンビニではあるが。

 秋水みたいな奴が出没するようなコンビニではあるが。




「ですが、お仕事頑張って下さい、と言わせて頂きます」




 ま、頑張ってね、というエールを一言。

 大変だなぁ、と他人事のように思いながら、たったの一言だ。

 特に気持ちのこもっていないその言葉に、え、と渡巻さんは呆気に取られるも、秋水はそれを気にすることなく、では、と片手を上げる。


「レジ打ち、速くなりましたね」


 中学生のガキからの、くっそどうでも良い軽い気持ちの褒め言葉を口にして、秋水は軽く手を振りながらコンビニを後にした。




 颯爽と去った後、残された渡巻さんの顔が、ぼっ、と再び真っ赤に染め上がっていた。











「と言うわけで、めでたく就職が決まったわ」


「いや鎬姉さん、とうに就職してるやん。ただの副業やん」


「本業も時間の切り売りなら、副業も時間の切り売りになるわ。プライベートの時間なんて “くそくらえ” になるわ」


「クソとか言うんじゃありません」


「お排泄物召し上がればよろしいのよ」


「違うそうじゃない」


 諸々の準備が終わっても、まだまだ昼飯前の時間という中途半端さではあったものの、あの叔母が祈織と揉めてはいないかと心配になってリサイクルショップの方を覗いてみれば、その叔母は訳の分からないことを口走りながら 「ぴーすぴーす」 と真顔のままピースサインを送ってきてくれた。返品は可能だろうか。

 本気でアルバイトとして雇用契約を結んだというのか。

 あんた、現段階で既にプライベートの時間を全て捧げるようなセルフブラック従業員みたいな働き方してるじゃん。バイトしてる時間なんてないだろ。

 半眼になって鎬を見下ろすと、何を言われるかは予め察していたのだろう、鎬の方が先に口を開く。


「お姉ちゃんをジロジロ嘗め回すように見るのは構わないけれど、外で欲情はしちゃ駄目よ」


「違うそうじゃない」


「ちなみに、時間なら何とかなるわ」


「本当かよ。いつだったか月の残業時間が200時間超えたわイエーイ、とかヤベぇテンションで電話してきたじゃん」


「リリース2週間前のUI全面仕様変更を10日で仕上げた時ね。あの時はあのテンションのまま、社長の目の前で計画を逆算できない部長をボロクソに叩いてやったわ。今じゃあいつ、私の部下なのよね」


「クソとか言うんじゃありません」


「使い古されたお排泄物に正論と残業時間と労働基準監督署からの書面でサンドバックにしてやったら、今じゃ私の奴隷なのよ、おーほっほっ」


「違うそうじゃない」


「まあ、私の残業時間の話って、社内だとわりと真面目に大問題になっているのよ」


「でしょうね」


 滅茶苦茶仕事が出来るだろうが、労働規則も滅茶苦茶にしている女である。問題にならないわけがない。

 それに話を聞く限りにおいては、会社側は何とかして鎬の残業時間を削ろうと苦心しているのが見て取れる。しかも、残業したい鎬の口から出た話から透けて見えるレベルなので、実際はもっと圧が掛けられていたとしても不思議じゃない。

 そもそもだが、昨日も今日も、そして明日も、鎬がこうやって時間を作っていられるのは、会社側が強制的に休ませたからである。


「だから今年は流石に残業減らそうと思ってたのよ」


「おお、良いじゃないか。社長さんが泣いて喜ぶよ」


「それで、減らした残業時間で副業をしようと思ってたのよ」


「おかしくない?」


 仕事をする時間を減らして作った時間で、違う仕事をすると言うのか。

 何か良い副業はないかなとか思っていたところ、このリサイクルショップに目を付けてしまったというのか。

 仕事大好き過ぎてドン引きである。

 と言うか、今の仕事が好きなんじゃなくて、仕事をすること自体が好きなんじゃなかろうかこのワーカーホリック。


「あ、あのー……」


 と、店の奥から若干申し訳なさそうに出てきたのは、この店の店長である祈織であった。

 手には祈織が着ているのと同じと思われるエプロンを持っている。

 秋水と鎬がいるカウンターの方へとてこてこ歩いてくると、何とも申し訳なさそうな顔のまま持っていたエプロンを祈織へと手渡してきた。


「なにかしら店長。今からこのエプロン着て客の呼び込みでもしましょうか」


「テンション高いところ悪いんですけど、私アルバイトの雇い入れしたことないから、従業員の申告とかよく分かんない……」


「私が出来るわ、任せて頂戴。労働条件通知書のはあるかしら? なかったり古かったら今から草案を書き起こすわ」


「もう私が店長である必要ないんじゃないかなぁ?」


「質屋営業許可・兼・古物営業許可さんが店長降りたら駄目じゃないの」


「私の名前は質屋営業許可でもなければ古物営業許可でもないんだよなぁ」


 何だか随分と仲良くなったご様子である。

 この1時間ちょっとの間に何があったのか気になるところだが、困惑している祈織に対してガンガンと鎬が詰め寄っているシーンが簡単に想像できてしまって、逆に秋水の方が申し訳なさそうな顔になってしまう。

 こんな叔母で申し訳ない。

 手渡されたエプロンをスーツの上から着て、どうかしら、と鎬が見せつけてくるので、どうしようかしら、と適当に返事をしておく。

 ちなみに、同じエプロンのハズなのに、鎬が着るのと祈織が着るのでは印象が全く違うのは何故だろうか。身長の違いだろうか。体型の違いには触れないでおく。


「制服らしい制服はこのエプロンだけで良いのかしら? 服装はどうするの?」


「ああ、服装は自由で良いですよ。仕事しやすい服装ならなんでも」


「メイド服なんて持ってないわ」


「一言も言ってないんだよなぁ。服装が自由なのと、自由な服装は別物なんだよなぁ」


「そもそも私、私服らしい私服って持ってないのよね」


「もう面倒だからスーツで良いんじゃないかなぁ」


 鎬の発言に対し、もう既にげんなりしながらも律儀にツッコミを入れている祈織に軽いシンパシーを感じる反面、早くも振り回されている姿に更に申し訳なさが上乗せである。


「なんか、何て言うんだろ、こんな美人なのに、口を開くとどんどん残念な気持ちになってくるよ……」


「あー……申し訳ありません。ご迷惑をおかけするかと」


「いや、良いんですけど……秋水くんのお姉さんって、いつもこんな感じなんですかね……?」


「……えーっと」


 既に疲れが見える祈織に謝罪を入れるも、返される質問にどう返答したものかと秋水は言葉に詰まった。

 いつもこんな感じなのか、と聞かれても、残念ながらいつもこんな感じである。

 さて、どうフォローを入れるべきか。

 こんな感じでも仕事は出来るんですよ、と言えば良いのだろうか。しかしながら、鎬は開発側の人間であり、販売側の仕事をしているわけではない。何故か本人は自信満々ではあるものの、適性があるかどうかは分からない。

 だとすれば、下手に仕事が出来るとかは言わない方が良いだろう。

 なら性格面か。

 普通に難ありなのだが。

 少しだけ秋水は考えた後。


「……大丈夫です。お酒が入っていないので、今日はまだ清楚な方です」


「酒乱なの!? 弟からなんのフォローも入れられないくらいの酒乱なの!?」


「もしも栗形さんに彼氏さんがいらっしゃるなら、絶対に鎬姉さんへお酒を与えては駄目ですよ」


「何で動物園の注意書きみたいなの!? 秋水くんと鎬さん深い溝を感じるんだけど何があったの!? て言うかその被害って私なの!? 彼氏なの!?」


「身内の私が聞くのも何なのですが、本当に雇って大丈夫なのですか……?」


「今の段階でもう不安がいっぱいいっぱいだよ私!?」


「コントの最中悪いけど秋水、ちょっと相談よ」


 別にコントなどしていないのだが。

 蒼い顔でおろおろしている祈織を尻目に振り向くと、鎬がこつこつとカウンターを指で叩く。

 そのカウンターには、置き去りにしていた白銀のアンクレットが2つ。

 そう言えば2つ目を出した途端、何故か祈織が泣き始めていたのだが、あれは結局何だったのだろうか。

 もう一度ちらりと祈織の方を確認してみると、その視線に対しては 「はえ?」 みたいな良く分かっていない顔をする。まあ、今泣いていないなら良いとするか。


「この、何かしら、腕輪? 足輪?」


「大きさ的にはアンクレットですね」


「そう、アンクレットね。これが10個くらいあるって言っていたけれど、それは本当かしら?」


 再びこつこつとカウンターを指で叩きつつ、真っ直ぐに秋水を見上げながら鎬が聞いてくる。

 ああ、なるほど、買い取りの話か。

 これに対しては言葉で返すよりも実物を見せた方が早いなと、秋水はリュックサックを下ろし、中から残っていたアンクレットを全部取り出した。


「今のところ、これだけだけど」


「分かったわ。店長」


「ひぃん、もうこき使われてるよぉ」


 残りのアンクレットを全部カウンターの上に乗せると、次に呼ばれた祈織が若干の泣き言を漏らしながら、それらに顔をぐいっと近づける。

 目を見開き、アンクレットの表面をまじまじと観察する。

 ただ、手で持たず、ルーペも使わず、置かれている物をその状態で、である。

 10秒程か。ざっと全てのアンクレットを間近で見てから、祈織はすぐに顔を上げて鎬の方へと振り返る。


「たぶん、全部同一品ですね。でも、箱に入れてないのに傷がないなんて、不思議……」


「傷がないのが不思議なの?」


「そりゃそうですよ、箱なんて元々傷から護るための物なんですから。その箱なしでリュックにそのまま入れてる状態なら、細かい傷があって当然です。どんなに強度がある金属だって、同じ金属同士で擦れたら傷がつくはずですし」


「そう、分かったわ。秋水、これの制作者が次に作ってもらえるとき、箱も一緒に作ってもらえないかしら」


「え、どうだろ。無理、じゃないかな」


 急に話を振られて驚いたが、秋水は困惑しながらも作り話を思い出しながら返した。

 そう言えば、何となく話の流れで、白銀のアンクレットの制作者となんとなく友達っぽい、みたいな感じになっていた。

 ダンジョンに出てくる角ウサギを殺したら確率で落とすドロップアイテムなので、制作者も何もないのだが、それをそのまま説明するわけにもいかない。

 まあ、角ウサギがアンクレットの生みの親なのだとしたら、制作者と知り合いなのはあながち間違いではないだろう。友達ではないが。

 そして箱については、そんな物をドロップアイテムとして落としたことは一度もない。

 だからたぶん、無理だとは思う。

 ふわっとした言い方になってしまった秋水の言葉を聞き、特にそれを疑問に思うことなく鎬は一度頷く。


「分かったわ。店長、それっぽい箱は作れるかしら? なるべく同一規格なのが良いわ」


「無茶ぶりぃ。アクセサリーケースなら買った方が早いし安いです」


「分かったわ。調達をお願いするわね」


「ひぃん、まだ雇ってないのに、もうどっちが店長か分からないよぉ」


「それで秋水、制作者の方へ挨拶に行きたいのだけれど、今から行けるか確認して貰って良いかしら」


 来たなぁ、と心の片隅で思いつつ、話を振られた秋水は黙って首を横に振る。

 角ウサギを、と言うか、ダンジョンそのものをアンクレットの制作者だと定義して作り話を盛ることは可能だが、鎬がダンジョンに来て貰っては秋水が困る。

 鎬はそのダンジョンの入り口が見えていないようだが。


「止めた方が良いよ。そもそも何で俺も会えるかよく分かんないレベルだし、何ならいつ会えなくなるかも分からないくらいだ」


「……本当に気難しそうな人なのね」


 人ではないけどな。

 あまり深く追求することなく鎬はそれで納得した。

 実際、何で秋水にはダンジョンの入り口が見えるのかは良く分からないし、何だったらいつ入り口が見えなくなるかも分からないのだ。一応ながら、嘘は全く吐いていない。

 ふむ、と鎬は一度鼻を鳴らし。




「で、その人は、あの汲み水と、なんの関係があるの?」




 さらっと、そんなことを聞いてきた。

 目がマジである。




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