18『妙な力』

 寝て起きてもまだ夜中。

 22時過ぎくらいに布団に入ったのに、目が覚めても日付がギリギリ変わっていない頃だった。

 アイマスクを外して枕元に置いてから、秋水はむくりと布団から体を起こす。

 寝不足な感じはない。

 むしろ頭ははっきりしていて、目覚め特有のぼんやり感があまりない。

 2時間程度しか寝ていないにも関わらず、寝る前に食べた物はすっかりと消化されてしまっているのか、腹に収まっている感覚もない。とは言えど空腹感がある訳ではなく、指の先まで栄養が行き渡っているような満足感がある。

 身体的には非常に爽快である。

 セーフエリアでの睡眠は、明らかに短時間化かつ高品質化される。

 体感的には間違いなさそうだ。

 本当に、爽快な目覚めだ。

 気分はどんよりしているが。


「はぁ……鎬姉さんに会いに行かなきゃなぁ……」


 半日後に組み込まれてしまったスケジュールを思い出してから、布団の上で秋水はがっくりと肩を落とした。

 メッセージを確認してから、とぼとぼと風呂に入って、もそもそと食事を食べ、暗い気分のまま布団に潜ったが、やはり寝て起きるだけではフィジカルが回復してもメンタルまでは立て直せなかった。


 棟区 鎬(むねまち しのぎ)。


 昼に会うことになったのは、秋水の叔母、つまり秋水の父親の妹に当たる人物だ。

 別に嫌いな人というわけではない。

 少なくとも姉さんと呼ぶ程度には気安い間柄ではある。姉さんと呼んでいるのは 『おばさん』 と呼ぶとブチ切れるからだが。

 実際の所、父親の妹ではあるが干支が一周以上離れており、秋水との方がむしろ年齢が近く、昔は一緒に暮らしていたせいで本当に姉のようには思っている。

 そう、本当に姉のように思ってはいるのだ。

 父方の祖父母は秋水が生まれる前に既に他界しており、父が鎬の面倒も見ていたために一緒に暮らしていた。そんな家庭の事情を深く考えてなかった小さい頃は、鎬のことは本当に自分の姉だとすら思っていた。

 だから嫌いなわけではない。

 大学には進まず高校卒業と共に就職して、独り暮らしをすると鎬が家を出たときは普通に寂しいとすら思った。

 そこから、まあ、色々とあって。

 今も嫌いではない。

 嘘ではない。

 純粋に、苦手になっただけである。


「気が重てぇ……」


 なるべくだったら顔を合わせたくないな、くらいには苦手となった、だけである。










 気分転換には運動だ。

 ストレス発散には運動だ。

 気持ちを切り替えるには運動だ。

 頭の中が筋肉でできているみたいな考え方だが、運動にリフレッシュ効果があるのは本当である。

 昨日に引き続きジムに行って真夜中の筋トレでもしようかとも考えていたのだが、それは予定変更だ。

 手早く栄養補給をして、ライディング装備に着替え、ポーションやら食料やらといつもの準備をいそいそと始める。


 おはようダンジョンアタックである。


 ストレスをトレーニングにぶつけるのも一興だが、ストレスをぶつけるならば角ウサギにぶつけた方が良い気がする。八つ当たりとも言う。

 それは1割ぐらい冗談だとしても、昼に出かける予定が入った以上は、ジムに行くのはその帰りで良いだろうという判断である。呼び出しで指定されたカレー屋は、ジムと同じ方向なのも幸いしている。

 なので早速ダンジョンアタックと洒落込むことにした。











「はい明るいけど真夜中ですよっ!」


 変な掛け声と共に、角ウサギの横っ面を全力でぶん殴る。

 グローブ越しにバールを伝わる鈍い感触。

 挨拶のような角突きタックルに対し、待ち構えることなくフルスイングのカウンターで挨拶をぶち込むと、突っ込んできた角ウサギは錐揉み回転しながら秋水の後ろの壁に叩きつけられた。

 本日の1体目、好調なる滑り出し。

 非常に野蛮だが、気分がスカッとした。

 ほぼ自殺のような形で壁に激突した角ウサギが軽くバウンドして床に落ちるより早く、気分爽快のお礼のように回し蹴り。爪先の鉄板部分を抉り込むように足を振るうと、偶然にもバールで殴った位置に安全靴がめり込んだ。

 蹴られた角ウサギは再び壁に叩きつけられ、その壁で削られるようにそのまま床に墜落する。

 その頭を、秋水は体重を思いっきり入れて踏みつけた。

 いつもなら蹴りを入れる前にボコボコに連打を叩き込む所だが、今回は手法を変える。いや、前回から手法を試行錯誤で変えている最中だ。


「へい、こんばんは」


 ぐっと頭を踏み込み、足だけで押さえ付ける。

 角ウサギの脅威は角だ。

 頭を押さえ込むだけで、その槍のような角の脅威はほとんど封じ込むことができる。

 確かに蹴りも驚異だ。

 実際に頭を踏んで押さえ付けている状態でも、少し時間が経つと角ウサギはじたばたともがき始めてきた。

 仰向けになっている所を踏みつけているわけではないので、銃弾のような角突きタックルを生み出すその足を使って抜け出そうとしているが、なるほど、ギリギリでなんとかなる。

 全体重を掛けるかのようにはなるが、片足で押さえ付けができなくは、ない。

 確かに角ウサギは大型だ。

 体長は目測で90㎝くらいだろうか。1mはないように見える。

 ウサギとしては間違いなく大きい。普通のウサギの倍以上はある。


 だが、それでも人間と比べたら、小柄である。


 小柄であるならば体積は小さくなるはずで、体積が小さければ質量も小さくなるはずだ。

 少なくとも投げ飛ばしたりしたときの感覚からすると、普通の人間よりは重量は軽かった。

 まして大柄で筋肉質な秋水と比較したら、その差は歴然だ。

 戦いにおいて、重量は正義だ。

 重たい方が強い。

 そこまで断言できなくとも、重量が重い方が肉弾戦では有利に働く場面が多いのは間違いない。

 ならば単純に、重量差を用いたパワープレイを、と思ったのだが。


「やっぱこいつの足、変だよなっ!?」


 暴れる角ウサギを足で押さえるが、想定以上に激しい反発が、逆に想定通りであることに苦笑いが漏れてしまう。


 物理的に考えて、角ウサギの最も異質な点は、その足だ。


 特徴的な角は確かに一番の脅威ではあるが、それが脅威である最大の理由は、角突きタックルをぶちかましてくる点にある。

 何でできているか分からない硬質な角が刺されば、それだけで致命傷を負うレベルではあるのだが、それはそれだけの勢いで突進してくるから脅威であるに他ならない。

 いくら硬くて鋭利に尖っている角であろうが、ゆっくり来られてはチタンプレートでも防げるだろう。

 弾丸のような速度で角を突き出して突っ込んでくる。

 だからこそ、角が一番の驚異なのだ。

 そして、その爆発的な加速力を生み出しているのが、角ウサギの2本の足である。

 もう一度言おう。


 物理的に考えて、その足は、異質だ。


 角ウサギは普通のウサギに比べて体長が2倍だと仮定すると、体積は3方の積だから質量は普通のウサギと比べると2の3乗で8倍だ。

 だが、力というのは密度と比率を横に置けば、筋肉繊維の太さ、つまり断面積に比例する。

 角ウサギの足が普通のウサギの足に比べて同じく2倍なのだと仮定すると、その足の出力は2の2乗で4倍にしかならない。

 釣り合いが取れていない。

 そう考えると、他の大型動物と同じく角ウサギの動きはもっとノロノロとしていて然るべきなのだ。

 だがどうだ。

 角ウサギは弾丸のように突っ込んでくる。

 4倍しかない脚力で。

 8倍の体重を跳ばしてくるのだ。

 しかも走って突っ込んでくるのではない。

 跳んで来るのだ。

 飛んで来るのだ。

 助走もつけず、その場からジャンプして、銃弾か、弓矢か、投げ槍の如く、その角を凶器に変える。

 角ウサギの脚力は、どう考えたって異常としか言い様がない。


「てことを、今思いついたんだけど、どうなのキミ?」


 踏みつけて抑えながら、秋水は小さく笑う。

 変わらず角ウサギは暴れている。

 足で踏ん張り、秋水を押し退けようとしている。

 それを全力で押さえ付け、秋水はじっくりと角ウサギの足を観察する。

 今までは、出会った、ぶっ殺す、みたいな関係だったのでしっかりとした観察はしていなかった。

 していなかったことに、今更気がつく。

 敵を知らねば勝てる戦いも勝てなくなってしまう。100戦楽勝で勝てるのは、自分の力量を把握して、相手のこともよく知っていてはじめて成り立つことである。そんな言葉を誰かが言っていた気がする。孫子か。

 しかし、観察したところで、角ウサギの足は普通の足である。

 普通のウサギの足の、順当にデカい版でしかない。

 足だけ異様に大きいとか、筋肉ムチムチしてそうとか、そんな感じは見た目からはない。

 そもそも、通常サイズのウサギだって、あんな勢いで飛び跳ねて突っ込んでくることはしない。

 と言うかできない。

 脚力の問題で。

 もっとも、4倍の脚力、と言うのは筋肉で動く生物に当てはまる話なので、角ウサギに対しては断言はできない。

 死ぬときに光を噴き出す生物などこの世に存在しないし、皮や筋肉が地上の生物と同系列とは思えないが、それにしたって角ウサギの脚力は異常出力である。

 普通に考えたら、あり得ないレベルの力だ。

 普通に考えたら。


 なら、普通じゃない考え方ならば。


 それなら、秋水には思い当たる節があった。




「キミ、身体強化、使ってる?」




 そう、妙な力、改め、身体強化だ。

 その考えを口にしてみれば、なるほど、すんなりと納得できる。

 身体強化はダンジョンに潜り始めてから得た力だ。だったら、ダンジョンから産まれているであろう角ウサギも同様の力が使えたって何もおかしくはない。


 なんならば、強化、という方向性ではなく、秋水が感じている 『妙な力』 そのものの可能性だってある。


 『妙な力』 という良く分からないエネルギーそのもので角ウサギができているのだとしたら、死亡演出も消えてなくなることも納得できた。

 もしもそうなら、死ぬときに噴き出している光の粒子は、『妙な力』 が可視化されている状態なのだろうか。その力が一定以下になると形を保てなくなるのだろうか。だから角ウサギは 『妙な力』 である光の粒子をまき散らしながら消えていくのだろうか。

 どれも仮定の上での予想でしかないのだが。

 なのだが。


「……だとしたら」


 確かめてみるしかないだろう。

 呟くと共に、踏みつけて押さえ込んでいた角ウサギを蹴りとばし、大バールを振り上げる。

 まずは1発。

 続いて2発。

 無言で3発。

 大振りでも力を込めて、だが反撃を許さないように、動きの鈍った角ウサギに4発目。

 そして確信を持って追加を入れて。


「うしっ」


 バールで殴った傷口から、光の粒が噴き出した。死亡演出だ。

 最初の一撃がフルスイングによるカウンター強打だったので、5発くらい殴れば殺せるだろうなというなんとなくの予想がぴったりと当たった。


 さて。


 問題はここからである。


 いつもなら警戒するために一歩下がるのだが、今回はバールを角ウサギに振り下ろしたままの姿勢で待つ。

 特に深い考えがあるわけではない。ほとんど咄嗟の思いつきに近い。

 用心としてイルミネーション噴出装置と化した角ウサギをそのままバールで押さえ付けてはいるが、少しも下がらず、むしろ角ウサギから噴き出る光の粒子をまじまじと観察する。

 青い光。

 緑の光。

 赤い光。

 他にもオレンジやら紫やらと、様々な色の光が粒となって噴き出している。

 まるでドラマやアニメの血飛沫のように、現実味のない噴き出し方である。心臓で血液を送り出している生物は、脈に合わせてもっとリズムを刻むように小分けに噴き出すはずなのだ。これは、水風船から水が噴き出しているのに近い。

 そんな噴き出し方をしている光の粒子を目で追うと、その粒子は噴き出した速度を持って勢い良く飛んで行く。

 だが、まるで何かの抵抗を受けたかのように急速に減速していって、1mも離れていないところでは既に空気中を漂う埃かのようにふわふわと漂うだけになる。

 そして、漂う光の粒子は、まるで角ウサギ本体と同じ運命かのように、ゆっくりと消えていく。

 と言うより、空気中に溶け込んでいく。


「んー……?」


 光の粒子が飛んで行った方をじっと見ながら、秋水は首を捻った。

 光の粒子が消えるのは、まあ、分かる。消えなければダンジョン内は光の粒子だらけになっているはずだ。

 しかし、飛び散った光の粒子が減速していく理由が良く分からない。

 減速していると言うことは、何らかの抵抗を受けていると言うことだ。空気抵抗のような抵抗力を受けなければ、光の粒子は噴き出したときと同じ速度のまま飛び続けるはずである。

 空気抵抗や摩擦といった物理的な抵抗を受けるのか。

 いや、それはない。

 その点については即座に否定できた。

 光の粒子が物理的な抵抗を受けるような存在なのだとしたら、壁や床に当たった光の粒子はそこに留まるか跳ね返らなければおかしい、はずだ、たぶん。


 それに第一、こんな間近で光の粒子を浴びまくっている秋水自身、何かを叩きつけられているような感触が全くない。


 ライディングジャケットとかを隔てているからだろうか。

 そう考え、秋水はおもむろに左手のグローブを外し、光の粒子を噴き出している角ウサギの傷口へと躊躇いもなくその素手を晒した。

 今までだって一歩離れていたとは言えども、普通に光を浴びていたのだ。たぶん大丈夫だ。

 蓄積していく系の毒ならどうなるか分からないが、浴びた所で今すぐにどうにかなることはないだろう。だからたぶん大丈夫だろう。

 そんな浅い考えで、噴き出す光の粒子へと手をかざしてみたのだが




 ぞわっとした。




「うへ」


 思わず変な声が漏れた。

 気持ち悪くはない。

 気持ち良くもない。

 熱くもない。

 冷たくもない。

 左手に当たる光の粒子はそもそも何の感触もなく、本当に実態があるのかどうかも分からない。




 が、鳥肌だけが一斉に起立する。




 いや、秋水自身は何も感じていないのだ。

 そのはずなのだが、変な感じがする。

 これは秋水の感覚ではない。

 なんと言えばいいのだろうか。秋水の内側にある、秋水とは違う何かが感じ取っているものを秋水が誤認している、そんな不思議な感覚と表現すれば良いのか。


「いや、つーか、これ」


 鳥肌ついでに冷や汗が流れた。

 奇妙な感覚を受ける原因であろう光の粒子は、何の感覚もないが確かに秋水の左手に当たっている。

 当たっている、が、貫通してこない。

 壁や床に当たっている光の粒子が跳ね返ったり留まったりしないので、てっきり物質を貫通するのかと思ったが、光の粒子はきっちりと左手で遮ることができてしまった。

 いや、可視化されている光が消えただけで、エネルギーそのものはどうなっているか分からない。

 いや、いやいや、いや。

 そうだ、この光の粒子をエネルギーが可視化された物だと仮定するならば。

 『妙な力』 そのものが可視化された物だと仮定するのであれば。




「……俺、吸収してね?」




 この奇妙な感覚は、秋水の中にある 『妙な力』 で感じ取っている感覚なのかもしれない。

 そう認識してみると、身体強化で使っている秋水自身の 『妙な力』 が蠢いているような、食事をしているような、広がるような、はたまた秋水の中を駆け回るような、そんな感覚がする。

 いや、そんな感覚に切り替わる。

 この感覚は正に、角ウサギが噴き出す光を、秋水が取り込んでいる感覚だ。


「てことは、やっぱ、こいつと俺の使ってる力は同類ってことだよな」


 確証はないにしろ、光の粒子を秋水の中の 『妙な力』 に取り込むことができているっぽいので、この光の粒子と 『妙な力』 は同類と考えても良いだろう。

 そこまで思考が辿り着くのと、角ウサギの死亡演出が終了するのはほぼ同時くらいだったか。

 光の粒子に気が向いていたせいで、消えていく角ウサギのことを全く見落としていた。

 左手に当たっていた光の粒子がなくなると、『妙な力』 を取り込むような感覚はゆっくりと消失していく。

 もしくは馴染んでいく。


「……ぐへぇ」


 ようやく消えた奇妙な感覚に安堵したように、秋水は勢い良くどさりとその場に座り込む。

 と、からん、と白銀のアンクレットが転がった。

 1体目からドロップアイテムとは今日はツいている、と気を紛らわすように考えてから、大きな溜息を盛大に吐き出す。


「あいつらのエネルギーは吸収できるけど……うへぇ」


 体の中を変なものがモゾモゾとしているような奇妙な感覚を思い出し、秋水はげんなりとした表情になる。

 『妙な力』 を吸収できるっぽいのは、まあ、朗報だろう。

 これは延いては身体強化のレベルアップにも繋がるはずだ。引き続き検証しなくてはいけない事柄としてリストアップすべきである。

 だが、あの奇妙な感覚は、どこまでいっても奇妙な感覚だ。

 暑いとも寒いとも触られているとも引っ張られているとも痛いとも気持ちいいとも全然違う、全く別物かつ新しい感覚だ。

 そして、慣れるのには時間が掛かりそうだと直感的に分かる。

 なんとなく気乗りがしないなとげんなりしつつ、秋水は近くで転がっていたアンクレットを拾い上げる。


「……そういやこれ、何となく拾ってたけど、何か意味あんのかね?」


 奇妙な感覚から思考を切り替え、拾ったアンクレットに目を落としながら秋水は急に疑問を感じた。

 角ウサギを殺すとたまに落とす白銀のアンクレットは、もったいない精神で拾っていたのだが、現在セーフエリアでまとめて積んで放置している状態である。なんなら今拾い上げたこのアンクレットもそうなる予定だ。

 しかしよく考えれば、これもポーションと同じくダンジョンで産出される不思議アイテムに他ならない。

 だとすると、何らかの不思議な効果がある可能性は十分にある。

 ふむ、と秋水は数秒程考えてから、ごそごそと安全靴の上からアンクレットを装着してみようとするが、どう考えてもサイズが合わない。当たり前である。靴の上から装着は普通しない。

 脱ぐのも面倒だなと思い、今度はグローブを脱いでいる左手首にすぽりと装着してみる。アンクレットもブレスレットも似たような物、という雑な考えである。


「おー……あー、うん」


 とりあえずは、まあ、綺麗である。

 シンプルながらも白銀が美しいそのリングは、そちらの方面には全く以て疎い秋水からしても綺麗な一品であるとは思う。

 思うのだが。


「んー、なんもないなぁ」


 装着した所で何か変わった感じはしない。

 足につけないと駄目なのだろうか。

 とりあえずはここで安全靴を脱ぐのも面倒なので、戻ったら試すことにしようと秋水は苦笑いをしながらアンクレットを左手から引き抜いた。

 いや、アンクレットは装飾品としては確かに綺麗なのだが、自分が装着すると考えると、なんだかなぁ、という気分である。

 秋水は自分の容姿がスタイリッシュなイケメンでないことくらいは自覚している。そういう人種が身につけたら光り輝くであろう一品も、自分が身につけても痛いだけなのも分かっている。

 まあ、装着した所で誰に見せるわけでもない。

 不思議な効果があるなら迷わず着けるけど、と思いながら苦笑したままそのアンクレットをポケットに入れようとして。


 ふと、閃いた。


 ポケットに突っ込もうとしたそれをもう一度目の前に持ってくる。

 効果は不明。あるかどうかは分からないが、ダンジョン産のアイテムだから、何かの効果あっても不思議ではない。

 だが、その部分を除いてはどうだろう。

 光沢は控えめな。

 白銀の美しい。

 シンプルなデザインの。

 C型リングをした。

 アンクレット。

 秋水の目にはそう見える。

 そして、アクセサリーにはとんと無頓着な秋水には今まで全く思いつきもしなかったのだが。




「おまえ、売れるんじゃね……?」




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 まあ、未成年なんですけどね。

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