社畜剣聖による異世界道中記 ~無敵の剣術を習得してるけどスローライフしながら冒険します~
羽田遼亮
第1話 異世界転移
俺こと吉田健人は戦国時代に端を発する古流剣術、破軍一刀流の継承者だった。
破軍一刀流とはその剣で大樹をへし折り、岩を砕く最強の剣術であったが、現代社会においては大して役に立たなかった。
現代日本では帯刀を禁じられていたし、私闘に及ぶ機会も極小だからだ。
だから俺は師匠である爺ちゃんの制止を振り切って社会人となった。
大学を卒業するとシステムエンジニアとなり、会社員となったのだ。否、社畜になったというべきか。
俺が就職することになったサイバージェイン社は社員を労働者という名の奴隷として使役しており、朝から晩まで働かせていたのだ。
その労働環境は、破軍一刀流を習得するため武者修行に明け暮れた俺でさえ音を上げるほど過酷であった。
終電と始発という概念が一緒になった異次元空間。
会社に寝袋が設置されていて男女雑魚寝。
精神を病み、鬱病になる同僚。
上記のような労働環境がまかり通っていた上にその給料は限りなく安い。
いわゆるブラック企業というやつに務めてしまった俺は軽く後悔した。
「こんなことならば田舎に残って爺ちゃんの道場を継いでいればよかった」
今日も終電に乗り込み、うとうととしながら自分の運命を嘆いていると、ふと声が聞こえた。
「健人よ。運命にあがなうのだ」
その声は男のものか女のものかも分からなかった。奇妙なほど若く、あるいは年寄りのものようにも思えたが、説得力に満ちていた。
俺はその声にいざなわれるまま終電を降りる。自分の住んでいる駅とは別の駅に。
なんでもそこに降り立てば日本ではない場所に連れて行ってくれるとのことであった。
夢物語のような話であるが、社畜として神経を摩耗させていた俺はその言葉を信じた。
JR井波駅、終電後に現れるという魔法の路線に乗ると異世界に行けるという。
「神よ、異世界に行けば社畜から解放されますか?」
「朝日と共に目覚め、日没と共に眠る人間らしい生活が送れよう」
「取引先からの突然の仕様変更はありますか?」
「異世界もなにが起こるか分からない。ただ、満員電車に揺られる退屈な日常とはおさらばできるぞ」
「明日食べるパンはありますか?」
「おまえほどの剣の達人であればいくらでも職にありつけよう。飢える心配はいらない」
なるほど、悪い世界ではないらしい。そう悟った俺は夢遊病患者のように深夜に現れるホームに立った。
そこでしばしときを待つと現実には存在しないはずの列車がやってくる。
俺を剣と魔法の世界に導くと神の声は言う。
「現代日本では役に立たなかったが、異世界ならば俺の剣術も役に立つかもしれない」
腰に剣はなかったが、そこに一振りの日本刀があるかのように奮い立つ。
「せっかく爺ちゃんに剣術を習ったのに、社畜になっちまったけど、人生をやり直すチャンスだ。社畜吉田健人は死んだ。明日からは剣術家吉田健人の復活だ」
爺ちゃんと荒行をしていた頃を思い出すとホームに列車がやってくる。
それに乗り込むと俺は生まれ変わる。
新たな人生を歩むことになる。
こうして吉田健人は辞表を書くことなく社畜を卒業した。
そして異世界グランフィルで剣聖と呼ばれる存在になるのだが、俺はそのことをまだ知らない。
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