6-24 公星くんの「好き」

「おれ、いつか言いましたよね。芸能界にいたこと後悔してないって。それでも、今でも不安になるけど、それを忘れさせてくれるのが花緒さんなんです。花緒さんと一緒にいて気づきました。好きな人が幸せそうだとおれも幸せな気持ちになれるんだって。花緒さんはきっと、こういうのを推しって呼ぶんでしょうけど。そんな言葉がなくても、花緒さんはおれにとって、特別に大切なひとなんですよ」


 ほかのなにも許せなくても、それだけはわかってほしいです。そう言われた。


「だから花緒さんと一緒にいたいんです。花緒さんにとってのそういう存在に、おれもなりたいんです」


 どこまでも澄んだ眼差しに射抜かれて愕然とした。そんなふうに願われなくたって、はじめからわたしの道標はひとつしかない。


 だけど、と、月に雲がかかるように不安が押し寄せる。


「わたしと一緒にいても、正しくなれません」


 わたしはいつも、上手に役目をまっとうできなかった。


 お兄さんは狂った。陽輝とは別れた。わたしに縋ったあのひとのことも、わたしじゃ助けられない。そんなわたしが、公星くんの傍にいていいの。

 恋人にも家族にもなれないわたしが。


「言ったでしょう。おれも花緒さんのことが好きです。だけどそれは、恋じゃありません。ほかのなにも目に入らないくらいに花緒さんのことが大切だと思っても、花緒さんに触れたいとも、おれのものにしたいとも思いません。男女なのになにも起こらない関係は、端から見たらおかしいかもしれません。だけどおれは、そんな花緒さんに救われました」


 好きなひとと付き合いたいとも、触れ合いたいとも思わない。好きなひとの視界に映りたいとも思わない。


 好きだと思ったひとを、ほかのひとと同じように愛せない、わたしは普通じゃない。





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