6-20 おそろいの傷
「おれが勝手に割り込んだんです」
「だけどそのおかげでわたしは助かりました。そのせいで……怪我は、大丈夫ですか」
公星くんの体にも、わたしと同じような、あるいはそれ以上の痣が浮かんでいるはずだ。
「怪我なんてたいしたものは、なにも」
「痣は。打ったでしょう」
「痣と、擦り傷は多少。でもそれくらいです。おれ、結構頑丈なんですよ」
公星くんが肩を撫でた。そこに、あるの。わたしを庇った証が。
「ごめんなさい。痛むでしょう」
「大丈夫です」
「警察も、厄介ごとに巻き込んで、時間を、奪ってしまって」
「花緒さん。おれを見てください」
さっきから頭が痛い。後頭部を押さえつけられているように重たいなと思っていたら、無意識のうちに深く項垂れていた。ゆるゆると首を持ち上げると、公星くんがまっすぐにわたしを見ていた。
「おれは大丈夫です。それよりもおれは、花緒さんを助けられて、間に合ってよかったと思ってるんですよ」
「怒らないんですか」
「怒る理由がありません」
「知りたいと思わないんですか」
「なにを」
「あのひとが誰か。わたしとどういう関係か」
「じゃあ、誰なんですか」
「……知らないひとです」
こんなのは答えにならないとわかっている。彼もそのはずなのに、追及の気配すら見せない。
「どうしてなにも言わないんです。おかしいでしょう。知らないひとに追いかけられて、あんなことになって」
「花緒さんが話したいなら聞きます」
言えない。子どもの頃にわいせつな行為をされて、動画を撮られて、拡散されました。それを見たひとが会いに来ました、なんて。
奥歯を嚙みしめていたら、公星くんがふっと力の抜けたような息を漏らした。
「じゃあ、いいです」
「だけど、もし、またあのひとが来たら」
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