6-6 崩壊
カメラ越しに言われて、わたしはとっさに背を向けた。それからふたりの追いかけっこが始まった。狭い部屋の中を駆けまわって、お兄さんに腕を掴まれて、わたしはけたけた笑いながらその手を振り払う。
敷きっぱなしの布団に倒れ込むと、お兄さんが乗っかってくる。わたしたちの間にはレンズがある。わたしは邪魔なそれをどけてしまおうと、何度も手を伸ばし、そのたびに、彼はわたしを腕ごと布団に押さえつけた。
わたしたちは下着姿のままはしゃぎ続けた。
そうしたすべてを、わたしはいつのもじゃれ合いの延長だと捉えていた。
だけど真実は違った。
二学期が始まって少ししたある日、体調不良で早退してきた母がテレビのニュースを見ていた。
『容疑者は黙秘を続けていますが、押収されたパソコンからは女の子を撮影した画像や動画が百件以上見つかったとのことで、警察は詳しく調べています』
さっさと次のニュースへ移ったテレビにわたしは釘付けになった。
「お兄さんの家だ」
「え?」
母が振り返る。
「さっき映ってたの、お兄さんの家だよ」
「さっきって、え? 女の子の写真が……ってやつ? 知ってるひとなの?」
「うん。よく遊びに行ってた」
それに、と付け加えた言葉で、母は真っ青になった。
「花緒も撮ってもらったよ」
母が電話をかけてから、あっという間に警察が家までやって来た。家の前に何台ものパトカーが停まって、周囲にご近所さんたちが集まってくる。慌てて会社から戻った父は、家から少し離れたところに車を停めた。
リビングで刑事さんと向かい合って、いろんな話をした。お兄さんの写真を見せられてこの人ですかと尋ねられた。わたしが「はい」とまっすぐ答えると、刑事さんは近くのひとに耳打ちをして、家の中を知らない人が慌ただしく出入りしていく。
「じゃあ、この写真に見覚えはある?」
ちゃぶ台の上に出された写真を見下ろす。母が息を呑んだ。父は「なんてことだ」と額を抑えた。わたしはうーんと考え込む。
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