6-7 過去

「夏休みに撮ったやつだと思います」


 畳の上に、服を着た状態のわたしが寝転んでいる。

 お兄さんはわたしの写真や動画を所持したり、インターネットで販売した罪で逮捕されたのだ。


 それからお兄さんの家に移動して、撮影したときのことを詳しく教えてほしいとお願いされる。


 そこでわたしは壊れた。

 同時に、わたしたち家族はぐちゃぐちゃになった。


 両親は顔を合わせるたびに喧嘩をした。


「おまえが家にいないからこうなったんだ」


 母が机を叩く。


「なんでわたしだけなのよ。あなただっていなかったじゃない」

「女の分際で。仕事なんかするからだ」


 わたしは布団の上に蹲って毎日泣いた。学校はしばらく行けなかった。そのうち父は帰って来なくなった。家の中はようやく静かになったけど、母にもうここにはいられないと告げられて県営団地に移った。


 落ち着いた頃に、登校を再開した。ランドセルを背負って歩いていると、旗振り当番の保護者が、わたしを見つけてあっという顔をする。どこにいてもじろじろと不躾な視線を注がれて、わたしは『大人しい子』になった。


 母は転職して必ず定時で帰宅するようになった。二度と間違いが起きないよう、いつもわたしを見つめている。それはわたしが望んだ家庭の形。だけど、わたしが欲しかったのはこんなものじゃないと、本当はわかっている。


 母に人生を捧げられることが苦しくてたまらない。こんな愛情なんて、健全じゃない。早くこのひとを解放しなくちゃいけない。


 高校卒業を機に逃げるように上京した。


 大学では男のひとも女のひとも、色んなひとと出会った。けれど、そのどれも、わたしは上手に立ち回れない。


 体の一部に触れられると、お兄さんの手つきが皮膚の下で蘇る。甘い言葉を囁かれれば、お兄さんの声が耳の奥で鳴る。淡く心を寄せ合った先に、あの手つきが待っているのではないかと想像せずにいられない。


 ──好きだから触るんだよ。それが当たり前のことなんだ。大人はみんな触れ合って愛情を確かめ合うんだよ。





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