6-3 呪い
「ほら、きれいでしょ」
「でも本物のほうがきれいだよ」
「そうだねえ」
「一緒にやった方が楽しいのに、どうしてわざわざそんなことするの」
一緒にはしゃいでもらえないのがたまらなく悲しくて、わたしは容易くいじけた。だけどお兄さんは一度もわたしを叱らなかった。困ったように静かに笑う。草木みたいなひとだと思った。
「写真に残しておけば、何年後かに、こんなに楽しいことがあったんだって思い出せるでしょ」
お兄さんは忘れっぽいのか、それとも寂しがりなのか、パソコンにはたくさんの写真が保存してあった。
「こんなにたくさん撮ってどうするの」
わたしはお兄さんの部屋の畳に寝転がって、頬杖をつきながらパソコンを見ている。隣であぐらをかくお兄さんを見上げると
「さあ。いつか消すか、それとも誰かにあげるのかな」
「あげちゃうの?」
「なくなっちゃうわけではないんだよ。みんなが同じものを持つようになる」
「そうすると、どうなるの」
「どうなるんだろうね。写真を見て、いろんなひとが俺のことを思い出してくれるかもしれない」
不思議なことを言う。保存してある写真は、どこにもお兄さんが映っていないものばかりなのに。
「俺、このまま誰にも知られず、ひとりのまま死んでいくんじゃないかと思うんだよ。夢なんて叶わないまま、家族もできないまま。誰も俺が死んだことにも、ここで生きてたことにも気づかないんじゃないかって」
いつの間にかお兄さんの目は真っ黒に染まっていた。わたしは知らぬ間に、そよ風も陽だまりも届かない、深くて暗い場所に迷い込んでしまったみたいだ。
わたしは膝立ちの体勢になって、お兄さんを抱きしめた。お兄さんの頭を胸に抱えて、いい子いい子と撫でてあげる。お兄さんがわたしを満たしてくれたように、わたしもお兄さんを助けてあげたい。
「ありがとう。花緒ちゃん」
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