5-2 待ち合わせ

 駐車場に陽輝のC-HRが停まっている。この寒いのに、彼はわざわざ車外に出てわたしを待っていた。見下ろすわたしに気づくと頭上で手を振ってくる。


 急いで向かうと、彼はエスコートするように助手席側に立った。


「おつかれさま」

「遅くなってごめん」

「いいの。こっちこそ、仕事終わりにごめんね」

「俺が行きたいって言ったんじゃん」


 陽輝がドアを開けてくれて、わたしは助手席に乗り込んだ。閉めるよとひと声かけてからドアが閉められる。わたしは前回の別れ際を思い出した。


 陽輝が運転席から腰を浮かせて、身を乗り出してくる。わたしはシートベルトで座席に縫い付けられたまま動けない。首だけ動かして陽輝と唇を重ねる。「じゃあ、また」と言って別れる。わたしたちの別れ方はいつも決まっている。


 別れ際に必ずキスをするのを、わたしは試されているようだと感じていた。


 きっと、今日もまた。想像している間に、陽輝が乗り込んできた。わたしは無意味に窓の外を眺めた。


「お腹空いてない?」

「空いた。陽輝は?」

「すっげー空いてる!」

「なら、向こう着いたら先にご飯食べようか」


 クリスマス目前のテーマパークは駐車場からでもわかるくらい煌々とライトアップされていた。


 わたしたちが車を降りるのとほとんど同じタイミングで、隣接した駅に四両編成の列車が滑り込んでくる。吐き出された大量の乗客たちがいっせいに改札へ押し寄せる。ほとんど空っぽになった列車が去っていくのを眺めていた陽輝が


「入園するのに、少し並ぶかもな」


 と言った。


「そうかも」


 わたしの声に被せるようにして、左手が握り込まれる。驚いて顔を上げると、陽輝に微笑まれた。陽輝の体温が手のひらにじんわりしみ込んでくる。通勤用に手袋を買おう、と思った。





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