第5章 月に叢雲
5-1 新しい日々
毎年ハロウィンが過ぎると、後はまっさかさま落っこちるみたいな速度で、クリスマスが迫ってくる。
日没は定時よりも早く、会社を出る頃には外は真っ暗になっていた。見上げてみても、街灯が眩しくて星は見えない。ハンドルを握る手があまりの冷気に痛む。車が欲しい。
「ん、なに。縒り戻したってこと?」
「じゃなくて。はじめて」
「は。付き合ってなかったの?」
まじかあ、と瑞希が大袈裟にため息を吐く。あの日改めて連絡先を交換して以来、頻繁に通話を繋ぐようになった。スピーカーモードにして、テレビの代わりに瑞希の声を聞きながら夕飯を食べている。
「なんでまた今更」
「んー。なんかそういう流れになって?」
瑞希の言う通りだ。逃げきれなくなってようやくだなんて、我ながら往生際が悪すぎる。
「五十嵐くんてどんなデートすんの。バッセン連れてかれた?」
「学生じゃないんだから。今度イルミネーション見に行くよ」
「インスタ上げてね」
「気が向いたらね」
こうやって瑞希と言葉を交わしていると、胸を張って生きているという充実感が湧いてくる。なににも憚らなくていい日々は気が楽だ。
「てかさ、いいの。五十嵐くんに電話してあげなくて。あたしじゃなくてさ」
「なんか仕事が忙しいみたい。週末は必ず会うようにしてるけど」
公星くんとは、なんとなく顔を合わせづらい空気が続いている。たまにすれ違っても挨拶だけで、以前みたいに脚を止めたりはしない。
土曜日の日没後、陽輝からLINEが入った。
『今会社出たから、そっち向かうね』『三十分くらいでいけそう』
わたしは『気を付けて来てね』と返信して、スタンプをひとつ送った。太った猫ちゃんが『よろしくお願いします』と頭を下げているやつだ。
今日、陽輝は午前中に仕事が入っていた。もしかしたら午後までかかるかも、と言うので予定を夕方からに設定しておいたが、案の定だったようだ。
三十分もしないうちに陽輝は到着した。
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