4-4 それは愛のような
まだ温もりの残る公星くんのカレーをレンジで温めてからいただいた。ふと思い立って、半年以上遮断していたSNSに久しぶりにログインしてみる。
リヴァステ公式が頻繁に稼働している。ファンたちのはしゃいだ様子から、まさに今、新作公演が行われているのだと知る。原作ゲームでは新たなメインストーリーが解放されたらしい。
流れてくるオフショットは知らない俳優のアカウントばかりだ。若手俳優の登竜門は、下の世代ほど入れ替わりが激しい。
これは誰だろう。なんの話をしているのだろう。なにひとつ解読できないまま、疑問すら瞬く間に思考の隅へと流れていく。
公星真宵じゃないと見られないだとか、今の方が歌はうまいだとか、たいした意味のない羅列を眺めて悟った。わたしの心は、もうそこにはない。
そうして彼もまた、そこには影すらいないのだった。
ひとり暮らしを始めた頃、学校給食の味が無性に懐かしくなった時期があった。肉じゃがはその際に一度だけ作ったことがある。出来栄えは悪くはなかった。
以降一度も食卓に並んでいないのは、自分ひとりのために手間をかける煩わしさと虚しさを痛感したからだ。
夕方を過ぎてインターホンが鳴った。予想通り待ち構えていたのは公星くんで、ただひとつ予想外だったのは、彼が携えるタッパーの中身だけだった。
「今度こそ肉じゃがを作ったので、お裾分けさせてください」
手渡されたタッパーは熱いくらいだった。わたしは困惑を隠せないままにそれを受け取った。
「ありがとうございます。だけど、どうして。せっかく成功したのに」
確か以前にも肉じゃがを作ろうとして、失敗したカレーのお裾分けをいただいた記憶がある。その際
「また失敗したら、少し持ってきてもいいですか」
と控えめに問われて、わたしは喜んでと返したはずだ。うっすらと忘れかけていた頃になって、彼は再びわたしの前に現れた。
「だって、どうせなら、上手にできたものを食べてほしいじゃないですか」
当然というような態度で、はにかんでそう言われて、わたしは深く納得すると同時に言葉を失った。
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