4-2 不安
スマホで口元を隠しながら、上目遣いに赤らんだ表情で問われて、様子がおかしくなったのはわたしの方だ。
「なにも、どこもおかしくないです。むしろわたしの方が眉毛がなくなってるくらいです」
言ってから激しく後悔した。これから、わたしは常に眉毛を警戒しながらこの時間を過ごさなくてはならない。公星くんが空気が抜けたみたいな笑みを零した。
「ふふ。お仕事おつかれさまです。突然すみません」
「そんな。ちょうど夕飯の支度をしようと考えていた頃だったので、正直ありがたいです」
撫でつけた前髪で眉毛を隠しながら
「よく作られるんですか。肉じゃが」
「いえ。この間実家に帰ったとき、母が作ってくれたのが美味しくて。自分でも作ってみたくなって」
やや遅れて浅く頭を下げる。
「先日はありがとうございました」
「わたしはなにも。ああそうだ。お菓子、陽輝に渡しました」
「押しつけちゃってごめんなさい」
「気にしないでと、陽輝も言っていました。間に合ったのでしょう」
「はい」
「なら、よかったです」
これは八月に公星家が訪ねて来た際にも伝えたことだった。あのときはご両親にぺこぺこと頭を下げることに必死で、後ろに控えていた公星くんとは形式的な挨拶程度しか交わせていない。だからあの一件以来、まともに顔を突き合わせるのはこれが初めてだ。
わたしが唇を結ぶと、公星くんもそうした。長い睫毛が丸い瞳に影を落とすのをじっと見送る。なにかを思案するとき、彼はいつも視線を落とす。
「あの、おれ、本当に変じゃないですか」
手元に目を置いたまま、不安げに尋ねられた。それは嵐の夜に廊下に落ちたものとよく似た声だった。
「変がどういうことか、よくわからないです。だけど、わたしは、もう見慣れました」
公星くんが瞳を持ち上げた。
「ああごめんなさい。やっぱりまだちょっとびっくりします。だけどなんていうのかな。今の生活が気に入っているんです」
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