3-18 母校
俺の勘違いだったかな、という言葉に、わたしは返答に窮した。時々上の空だったのは本当だけど、正直に伝えるのは陽輝にも作品にも失礼だ。なにより集中力を欠いたことについて、作品に罪はない。
「わたし、いつもぼーっとして見えるから」
「そう? しっかりしてると思うけど」
どこへ行っても、ぼんやりしてるよね、と指摘されることが多い人生だった。だから、さらりと返されてなんとなく気恥ずかしくなった。
「だけど俺も時々集中できなかったな。だって背景が全部知ってる景色なんだもん」
母校が撮影に使われた映画が公開されるらしいから一緒に行かないか。陽輝から連絡がきたのは、お盆休みが明けて間もなくのことだった。
わたしたちは四月に再会を果たしてから、月に一度か二度のペースでふたりの時間を共有するようになった。それは今日みたいに映画だったり、なにも予定がなければただ会ってご飯を食べるだけだったり、時には陽輝の運転で少し遠出してみたりと、様々な過ごし方だった。お盆休みにも一面に広がる美しいラベンダー畑をふたりで見に行った。そのときは、会社で割引券をもらったから、とわたしから誘った。
「わたしたちって結局恋愛ものやらなかったよね」
「だな。女子の反発が強かったから」
「みんな恥ずかしがってただけじゃない?」
「いや。一回誰かが恋愛ものの脚本を提案したときに女子がすっげえ顔して、これ絶対やっちゃいけないやつだ、って男子部員だけで反省会したことがあったんだよ」
「なにその面白エピソード」
陽輝は部内でも人気があったから、彼の相手役なら喜んで受け入れそうなものだけど。
「一回そういう役やるとさ、学年の連中に卒業までいじられるじゃん。あいつら付き合ってるらしいよ、みたいなさ」
陽輝はそこで一度言葉を区切った。躊躇い交じりの呼吸の後、取り繕うような声で
「俺たちもそういうのあったよな、そういえば」
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