2-14 答え合わせ
彼はぎょっと目を丸くして、けれど動揺を見せることなく元の振りへと戻る。現役時代の片鱗を目にしたような気がしてわたしの胸は歓喜に満ちた。
もう一度あなたに会えるなんて、夢みたい。
ペンライトを持てない代わりに胸元で両手をきつく握りしめて、一瞬さえも見逃すことがないように彼の一挙一動すべてを瞳に焼き付ける。
公星くんが反動をつけるみたいに体を捻る。直後、お手本みたいに美しいターンの振り向きざまに、白い指先がまっすぐにわたしを捉えた。
形のいい唇が音を発さないままに動く。
『ばーん』
公星くんの指さしに射抜かれて、わたしはいとも容易く泣き崩れた。
このひとを応援してきてよかった。
それしか考えられなかった。
綺麗に並んだ体育座りの膝小僧のひとつに、血が滲んでいるのを見つけた。絆創膏を差し出すと、小学生ではなく公星くんが「すみません、おれ持ってなくて」と頭を下げる。
濡れた傷口を絆創膏で塞いでやると、目元を赤くした小学生が「おにいちゃんありがと!」と無邪気にはにかんで遊具へ駆けていった。
公星くんが困ったように眉尻を下げた。
「どうしたらいいかわからなくなっちゃって」
「自分にできることをしたんでしょう? 立派なことですよ。あれはわたしにはできないことですから」
「恥ずかしいな。まさか知り合いに見られるなんて」
「ふふ。確かにちょっとびっくりしました」
「びっくりしたのはこっちですよ。いきなり泣き出すんですから」
肩を竦めてそう言われ、わたしはなんだかお説教をされている子供の気分になった。
確かに目の前で突然年上の女性が泣き出すって、なかなかの恐怖体験かもしれない。反省はしている。けれど。
「ごめんなさい。嬉しくって」
「……ファンサが?」
「ぜんぶです。また公星くんのダンスが見られたことも」
目尻に滲んだ涙を指で拭いながら告げると、公星くんは「……なんか、余計に恥ずかしくなりました」と目を逸らした。
それから、わざとらしい咳払いをひとつ落とす。
「今、帰りですか?」
「はい。たまたま通りがかって」
「じゃあ一緒に帰りましょう」
一緒に。心臓が高鳴る。
「今日は珍しくスーツなんですね」
アパートまでの道中、公星くんがふいに尋ねた。
わたしは遅れて自分の下半身を見下ろす。ストッキング越しとはいえ、肌の色を晒すような服装をすることに対して緊張感があった。ましてやそれが公星くんの前となると、なんとなくいたたまれなくなる。
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