2-12 眩しかった世界
言い切った眼差しの透明さに息を呑む。このひとのこういうまっすぐな所が心底好きだったのだと思い出して、体温が一度上がったような心地がした。
けれど、直後に付け足された言葉でわたしは有頂天から仄暗い現実へと瞬く間に引きずり戻される。
「それにおれはもう舞台を去った身ですから。そんなふうに思う必要なんてないんです」
それは謙遜というよりも、突き放すといった表現の方が近い響きだった。
確かにわたしたちは同じものに胸を躍らせていた。けれどすべて過去の話だ。
わたしも彼も、もう二度とあの眩しい世界に踏み入ることはない。
──おれはただ、静かに生きたいだけなんです。
世界中の輝きは彼のためにあるのだと疑いの余地もなく思わせてくれていた公星くんの面影はどこにもない。
公星くんは舞台が嫌いになってしまったのだろうか。
あの輝きを思い出すだけでも悪夢に苛まれるのだろうか。
尋ねてしまおうか逡巡して心臓が締め付けられるような心地がした。
去っていった公星くんの背中をじっと見つめる。浮かび上がった輪郭が夜の中で儚く揺らいでいる。
──ねえ、公星くん。あの場所に立つことは、あなたにとって苦痛だったの。あの場所に立つあなたを応援してきたことは、間違いだったの。
人事担当者との一次面接は恙なく終了した。
事前に社内の見学を申し込んでいたため、応接室を出るとそのままオフィスへと案内される。
案内に耳を傾けながらオフィスをぐるりと見渡す。時折けたたましいコール音が響く以外は静かな環境だ。若い女性も存外多い。
「そういえば」先を歩いていた人事担当者が、思い出したと言うように口を開く。
「藤田のお知り合いでしたね。呼びましょうか」
問われて、胸が詰まった。
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