2-7 紹介
眩く華やかな舞台の裏にはいつだって泥臭い努力が潜んでいる。忘れたつもりはなかったけど、無邪気な目をしてホール内に吸い込まれていく観客をひとり見送るたびに、わたしも最近まであちら側にいたのだと思い知らされる。
公星くんはどんな思いでわたしたちの知る公星奏汰を作り上げたのだろう。
そうしてどんな思いで舞台を降りたのだろう。
終演後の客席には関係者のみが残り、各々劇団員と交流を楽しむ。
陽輝がアパートまで送ってくれる予定になっていたため、挨拶が終わるまでわたしも待っていなくてはならない。楽屋でアンケートの集計をして時間を潰していると、控えめなノックの後に扉の隙間から陽輝が顔を覗かせた。
「花緒、今時間平気?」
手招きされるままに彼の背を追うと、関係者席にひとりの男性が深く腰掛けているのが見えた。そのひとは陽輝の肩越しにわたしを見つけると「どうも」と朗らかに笑った。
「こちらはシニア劇団の代表の藤田さん」
わたしは陽輝と藤田さんの顔を交互に見比べて、どうもと儀礼的に腰を折った。おそらくわたしの親世代にあたるであろう藤田さんは、のっそりと緩慢な動作で腰を上げる。
「聞いたよ。五十嵐くんの同級生なんだって?」
「はい。高校の友人で」
戸惑いがちに陽輝に視線を投げると、余所行きの笑みを浮かべた陽輝がすかさず言葉を添える。
「そうなんですよー。俺も香住さんも演劇部で。今日は手伝い頼んだんです」
「若い子が増えて羨ましいねえ。うちなんて一番若くて四十八だよ?」
「しょっちゅううちから客演引っ張ってるじゃないですか。そのうち引き抜かれるんじゃないかって代表が冷や冷やしてるんですからね」
「わはは。今後ともよろしく頼むよ」
すっかり置いてけぼりにされて、わたしは愛想笑いを浮かべるしかできない。いい加減焦れてきた頃に陽輝が「ああ、それで」と会話を区切った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます