2-6 久しぶり

「え、っと」

「あ、でも仕事あるか」

「ううん。まだ無職だから平気」


 わたしが二の足を踏む理由はスケジュール上にはない。だけど。


「また花緒と一緒に、って思ったんだけど」


 彼の目を見つめて、わたしの懸念は遠い場所へと薄らいでしまった。

 そうだ。出会った頃からわたしは陽輝を拒絶できないのだと、この瞬間はっきりと思い出した。


 一週間後の土曜日、ぴったり八時に駐車場に滑り込んできた陽輝と合流し、そのまま彼の運転する車で会場へと向かった。


 釘を打ち付ける音が鳴り響く中、大勢のひとが慌ただしく歩き回っている。大きな平台をひとりで支えている陽輝を見つけて駆け寄った。


「受付終わったん?」

「うん。だからこっち手伝うよ。貸して」

「花緒には重いから無理だよ」

「大丈夫。ここ乗せればいい?」

「そう。せーの」


 持ち上げると同時、両手が重く痺れ出す。思いきり顔に出ていたようで、向かい側で陽輝が「言ったべ?」と噴き出す。

 高校生の頃は平気で持てたのに。勝手に落ち込むわたしの隣で陽輝が無邪気に笑んでいる。


「なんか昔に戻ったみたい。嬉しい、また花緒と一緒にこういうことできて」


 陽輝の上機嫌につられて、子どもに戻ったみたいにまっさらな気持ちで「わたしもだよ」と返した。

 その日は夜公演のみだったため、昼過ぎに会場設営が終了してからはリハーサルが行われる。もぎりの手伝いをすることになったわたしも、終日会場に籠ることになった。


 わたしは集まった観客をホールに通しながら、この場にはいない公星くんへと思いを馳せていた。


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