2-3 重なる再会
終演後のロビーには未だ大勢の観客が残っており、挨拶に出て来た劇団員と談笑する様子が多く見られた。中には見覚えのある面差しも見つかる。ラフな格好に着替えてはいるが、おそらくさっきまで舞台に立っていた出演者だ。
顔を伏せてさっさと出口まで辿り着いたわたしの背後で、見計らったようにその声が響く。
「あれ、もしかして花緒?」
ぎくりと音がつきそうなほどわかりやすく強張ったわたしの背に、そのひとの声は一直線に突き刺さった。錆び付いた動作で振り返って見ると、スタッフTシャツに身を包んだ汗だくの男性が佇んでいた。
「うわっ、マジで花緒だ! なんでいんの?」
舞台上でもよく通る声がロビー中に響き渡って、わたしの背中が自然と丸くなる。
「ひ、久しぶり、
歪にひっくり返った声で名前を呼ばれた彼は、高校時代によく見たのと同じ調子で豪快に笑った。
わたしと陽輝は高校の演劇部で出会った。
わたしが音響で、陽輝は役者。当時から陽輝はその名の通り眩しいひとだった。
陽輝に声を掛けられたとき、わたしは駅のホームでベンチに腰掛けていた。
「おつかれ」
ふいに耳元で声が響いて驚く。イヤホンで蓋をされた鼓膜でも、陽輝の声は一瞬で聞き分けられた。
陽輝がわたしの肩に自分の頭を寄せるようにしてスマホを覗き込んでくる。わたしはyoutubeを見ていた。
「香住さんてこういうのが好きなんだ」
「ううん。劇で使えそうな曲探してて」
緊張ですっかり強張ったわたしの声を気に留めた様子もなく、陽輝は瞳を輝かせて「へえ」と相槌を打つ。
「それ俺にも聴かせて」
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