回想2-2

 背の高いカウンターに文庫本を乗せたら、向こう側でいつものお姉さんが「いらっしゃい」と笑ってくれた。


「花緒ちゃんはたくさん本を読んでえらいね」

「だって面白いよ」

「こんなに字がいっぱいあるのに?」

「いっぱいある方がいっぱい楽しめるよ」

「そうだね。わたしもそう思うよ。だけどね、不思議でもあるのよ。どうして花緒ちゃんは公園に行かないんだろうって」


 わたしはその場で振り向いた。図書館の窓からは公園が見える。やっぱり今日もたくさんの親子が来ている。


 子どもひとりきりのわたしでは、そこには入れない。おまえは来ちゃいけないんだと言われているような気がして。


「ひとりでも行っていいの?」

「もちろん。公園はみんなのところだもの」


 バーコードを読み取った本を差し出しながら、


「だから花緒ちゃんも公園に行っておいで。それで今度こっちに来るときは、たくさんのお友達も連れておいで」


 笑顔でとても難しいことを言われた。わたしは少し困って、それから「頑張る」と答えた。べつに本は好きじゃない。だけどお姉さんのことは大好きだった。





 公園の休憩所に座って、好きなだけじゃうまくいかないなあ、とため息を吐く。


 勇気を出して来てみたけど、どこを見てもひとりきりの子どもなんていない。楽しそうに走っている子を見つけて声をかけてみようともした。だけど、その先にお父さんらしき大人がいたからやめた。





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