1-17 わかるから
部屋に戻っていないなら、どこかここから離れた場所へ逃げたはずだ。
今の公星くんはわたし以上に周囲の視線に対して敏感になっている。世界のすべてが彼を追い詰める脅威に映っているはずだ。
もっとも、この世界のほとんどが、実際には彼の脅威になんてなりえない。むしろ無関心といってすらいい。
サイトの投稿者だって、たいして公星くんに関心がある訳ではないのかもしれない。
だけどわたしたちの抱える呪いは、いつだって世の中の正解とは遠い場所にあるの。
息をするのも憚られるほどの警戒心と恐怖。そんなものに彩られた日々の薄氷の上を歩むような不安定さ。
わたしはそれを知っている。
だからわたしは必死に頭を働かせた。
誰の視界にも映りたくないとき、わたしならどこへ行く? どこかへ逃げたくて、でもどこへ行っても救われない気がして、泣きたくなる夜に心に浮かぶ景色はどこだろう。
心当たりに至って、わたしは脇目もふらずに駆け出した。
彼を失いたくない。
推しだからじゃない。
わたしも、まだ痛い。
薄明りの灯った有楽公園に人の姿はない。
スマホのライトで周囲を照らしながら遊具の陰をひとつひとつ確認していく。アスレチック遊具の陰を覗き込んだ直後、トンネルに入ったすぐの所で三角座りで縮こまった公星くんと目が合った。
「ひっ、ああ……」
ふたり同時に飛び上がりかけて、抑えきれずに漏れ出た呻き声がふたり分重なった。
気が動転している中、咄嗟に身を隠すならそう遠くへは行けないはずだ。周辺は住宅が多く、人目を避けられる場所は限られている。
咄嗟に思い付く場所なんて、思い入れの深い場所か直近で訪れた場所だろう。最低限の外出しかしない公星くんが直近で訪れた場所なんて、わたしに思いつく限りではここしかない。
より深くトンネルの内部へ潜り込もうと、公星くんが体をずらす。
「待って!」
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