1-14 推し

 ゲーム内で舞台のチケット先行が行われることを知り、ちょっとした運試しのつもりで応募したところ見事に当選。


 訪れた劇場で、公星くんは一瞬にしてわたしの心を奪ってしまった。


 ゲーム画面の中にしか存在しないと思っていたキャラクターが、現実の存在として舞台上に降臨しているのだ。わたしはすっかり2.5次元舞台と、キャラクターを見事に体現した公星くんの虜となり、終演後劇場から帰る電車の中で残りの公演のリセールに申し込んだ。


 それからは初めての恋に溺れていくみたいに彼に夢中で、時には我を失うほど彼の輝きに心を預けて、そうして今に至る。


『リ:ヴァース!』はアイドル育成ゲームのため、『リヴァステ』には俳優たちによるライブシーンが含まれる。


 テレビ画面の中で公星くんが全身から輝きを迸らせて踊っている。伸びやかな歌声が鼓膜を通ると、体の芯が抗えない歓喜に震えた。


 同時に、無邪気な笑顔を振りまく公星くんの奥に、「静かに生きたい」と告げる疲れ切った面影が蘇って朧に揺れる。


 この笑顔は役としての笑顔であって、公星くんの笑顔じゃない。

 公演当時、公星くんはまだ十八歳だった。本物の公星くんは二十三歳になって、今、隣の部屋でわたしと同じように息をしている。


 この地に流れ着いて、はじめて彼と相見えた際に芽生えた違和感。


 ──公星くんって、こんなだったっけ。


 灯りを消した後の蝋燭から立ち上る煙のように、吹けば掻き消えそうで、ゆらゆら掴めないのに、終わりの気配だけが強く香る。見えない誰かの影に怯えて、隠れるみたいに背中を丸めて。それはまるで、わたしみたいだった。


 画面越しに焦がれた面影は、もうどこにもない。


 十八歳の公星くんはどんな思いでこの笑顔を作り上げたのだろう。

 二十三歳の公星くんは薄い壁の向こうで、どんな顔をしているのだろう。



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