1-13 本音
公星くんの震えた呼吸が静寂を破る。わたしは爪が皮膚に食い込むほどに強く拳を握りしめた。
そんな目でわたしを見ないで。わたしははじめから、あなたの視界になんて映りたくなかった。あなたの世界にわたしの世界なんて交わらないでほしかった。
ただあなたが心穏やかに暮らしていてくれれば、それで十分だったのに。だけどそんなすべてを、わたしが壊した。
「おれはもう芸能人じゃなくて……ただの、」
長い睫毛を伏せた公星くんがアスファルトの床に何度も視線を彷徨わせる。わたしを一瞥すらせず、浅い呼吸の隙間で落とされた言葉はわたしの胸を静かに穿った。
「おれはただ、静かに生きたいだけなんです」
一礼を残して隣室へ消えた公星くんを見送って、わたしも部屋に籠る。
そうしてまだぼんやりと霞がかったように虚ろな頭のまま、テレビの前にクッションを抱えて腰を下ろした。
テレビ台の下には公星くんが過去に出演した舞台のBlu-rayがずらりと並べられている。その中で一番古いものを抜き取ってデッキに押し込んだ。
真っ暗な画面から煌びやかな音楽が溢れ出すと、呼応するように客席で無数のペンライトが灯った。『リヴァステ』はライブシーンから始まるのが恒例なのだ。
わたしが公星くんと出会ったのは、彼のデビュー作となる舞台だ。
原作は女性向けスマホアプリ『リ:ヴァース!』。崖っぷちヒロインがボーイズグループをプロデュースする男性アイドル育成ゲームだ。
まだ何者でもない者が、あるいは人生のドン底を味わった者が、新しい自分に生まれ変わり眩しいステージを目指す、ボーイズ・シンデレラストーリー──というのが、公式ホームページに掲載されているあらすじで、わたしは当時の友人から熱烈に勧められたことがきっかけでプレイしていた。
そうして『リ:ヴァース!』の2.5次元舞台版となるのが『リ:ヴァース! on STAGE』──通称『リヴァステ』。すなわち公星くんのデビュー作だ。
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