1-10 同担

 スマホの時刻表示の下に写る人物。共演者と肩を組んであざといピースをカメラに向けた公星くんが、ロック画面で無邪気に笑っていた。





 出会いから約十分後、わたしたちはテイクアウトしたコーヒーを携えて公園のブランコに並んで座っていた。


 首を動かさないまま周囲に目を遣ると、こんな開けた場所にいるのに、六畳の和室に閉じ込められたかのような閉塞感を覚える。どこかから風に乗って蝉の声が運ばれてきているような気がする。白いワンピース姿のわたしを、誰かが熱心に眺めているような気がする。


 炎天下に飛び出したみたいに汗が噴き出た。


「急に変なこと聞いてごめんなさい」


 呼びかけられて正気に戻った。


 わたしが緩やかに首を振って答えると、彼女は力の抜けた微笑を零して「お姉さんも奏汰くんを探して?」と言葉を重ねた。


「いえ。わたしは元々この辺りに住んでいて」

「じゃあ奏汰くんがここにいるかもって話は」

「一応。でもそれってただの噂なんじゃ」


 問うと、女性は「最後の目撃情報がこの近くで」とわたしにスマホを差し出してきた。受け取って覗き込んだ画面には例のまとめサイトが表示されている。


 ページの一番上に浮かんだ文字列を認めて目を瞠った。昨夜S市文化ホールでの目撃情報が更新されている。文化ホールはアパートから徒歩で十五分程度の距離しかない。どうしよう。どんどん彼に近づいている。

 一瞬にして背中に冷えた汗が伝った。


 誤魔化せないほど強張ったわたしの横顔を静かに眺めていた女性が、ふいにため息にも似た薄い吐息を漏らす。





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