1-4 現実

 ……いや、嘘でしょう。唇の端から引き攣った笑いが漏れた。


 エイプリルフールの嘘にしては手が込みすぎている。試しに『公星奏汰』とGoogleで検索すると、ずらりと並んだ検索結果の下の方に怪しげな文字列を捉えた。


 『2.5俳優目撃情報まとめ』と題されたそのサイトには、公星くんのページも含まれていた。恐る恐る開いてみると、古いものでは五年前からの公星くんにまつわる情報が投稿されている。


 そうしてその一番上に、先月投稿されたばかりの新規情報を発見してしまった。場所はT県の某駅。現在地からはタクシーで二十分ほどの場所だ。


 ウーバーイーツすらいない田舎に、推しがいる。


 現実をまともに受け止めきれずに頭を抱えてしまう。同時に、胸から溢れそうなほどの安堵を覚えた。


 そっか。公星くんもわたしと同じで地元に帰っていたんだ。

 失踪した推しがちゃんと生きていた。たったそれだけが、涙が零れそうなほど嬉しい。


 まだ痛む胸元を抑えて目尻を拭った瞬間、その声は背後からわたしに降り注いだ。


「あの」

「ひっ」


 麗らかな日差しを浴びた黒髪に天使の輪が浮かび上がっている。振り返った視線の先で、公星くんはかつて焦がれた清廉な瞳をそのままにわたしを見下ろしていた。走って来たのか、マスクを顎に引っかけて浅い呼吸を繰り返す。


 一瞬にして体の内側に火が灯る。指先に至るまで全身を逃れ難い熱が支配していく。涙が滲み出して視界が霞む。待って、待ってと頭の中に意味を持たない言葉が溢れた。


 引退発表の日の記憶が蘇っていく。




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