第2話

ep2


魔学者とは、魔法に重きを置く学者の中でも特に優れ、王家に認められたものに与えられる称号。そんな称号が頭につく魔法使いは少ない。一つの大国に3人いればいい方だ。


そしてここに、その称号をもつ魔法使いがいる。長い金髪を手櫛で整えつつ、先程受け取った手紙を読んではため息をついた。


(はぁ、せっかくいい気分だったのに、この手紙たちのせいで台無しなのだわ)


白い鳥から受け取った手紙の中から、セインはさらに選別した。残った枚数は3枚。それ以外の手紙は全て燃やしてから、彼女は3枚のうち1枚目、王家の封蝋が押された手紙を開く。


貴族や王家特有の長ったらしい挨拶から始まった長ったらしい手紙。最初の数行で読みたくなくなった彼女だが、我慢して最後まで目を通した。


内容を要約すると、その知識で王家に貢献してほしいというものだった。要は嫁に来てくれということである。


なぜ高貴な身分は、こんな簡単に要約できる文を、紙2、3枚を浪費し書くのだろう、そう考えてため息をつき、彼女は今の王子達を頭に浮かべた。


第一王子は表に顔を出さず、陰鬱な男。

第二王子は性格こそ素晴らしいが、いまいち頭が回らない。

第三王子は最近戦場へと赴いたが、まともな指示もしないらしい。

第四王子は少し前に病死した。

第五王子に至っては、最近生まれて、やっと歩き始めたころだ。


彼女は何度目かのため息をついた後、手に持っていた手紙を燃やした。



2枚目も似たような内容だった。付き合いのあった貴族の次期当主からの熱烈なラブレター。読むだけで背筋が冷えるその手紙は、魔法使いの熱い炎によって、熱を持たない灰になった。


(王国には色好きしかいないのかしら?)


柄にもなく失礼なことを考えてしまうほどだったが、すぐに思考を切り替えた。

今までとは打って変わって、真面目な表情になる。


それもそのはず、3枚目の手紙を寄越したのは彼女の師匠だったからだ。


(今回はまたどんなお話かしら)


一見普通の手紙だ。無駄を好まないあの師匠らしい。びりり、という小気味良い音を立てて、手紙を引き抜いた。


『愛弟子よ』


少々癖のある字。しかし、見慣れたそれは、彼女にすこしの安心感とたくさんの懐かしさをくれた。


『最近戦場の雲行きが悪いらしい、私の友人も怪我を負ってしまってな。穴埋めがいるようだ。』


懐かしさに浸りながら特に何も考えず読んでいた彼女だが、嫌な予感と同時に視界に入った次の文に、頭を抑えることになる。


『愛弟子よ、お前なら問題はないだろう。東部戦線ヴァラジア、お前が良く行くと言っていたヴァラスタ山脈を超えたところだ。』


嫌。そんな気持ちを隠しもせずに歪んだ表情で、最後まで手紙を読んだ。


『どうせ実験やら研究やらで私がくれてやった研究所にこもっているのだろう。これを機会に外へ出て、功績の一つでももぎ取ってこい。』


空いている手の親指と中指が合わさる。

力を入れて指を弾き、パチンという音が鳴る。同時に火花が散った。


『期待しているよ、セイン』


彼女は今日、3枚目の手紙を燃やした。



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